高橋秀実「弱くても勝てます/開成高校野球部のセオリー」新潮社


「弱くても勝てます」―開成高校野球部のセオリー

「弱くても勝てます」―開成高校野球部のセオリー


 書評サイトHONZの成毛眞氏が「面白い本」で推薦されていた「はい、泳げません」が抜群に面白かったので、同じ著者の新作であるこれも読む。


 本書は、日本一の東大進学率を誇る開成高等学校の野球部に取材し、独特の練習や考え方に迫るルポルタージュ。グラウンドでの練習は週一回、戦力も劣り、少ない練習時間で戦うために、他校と同じことをしていては勝てないということで、開成高には独特のセオリーがある。これがとてもユニーク。


 時間の割に差の出ない守備練習は「しない」。10点取られることは「当たり前」。その代わり、練習時間のほとんどはバッティングにつぎ込む。一番から強打者を並べ、勢いにまかせて大量得点を狙う。監督いわく「ドサクサにまぎれて勝っちゃう」ギャンブルのような勝ち方である。この方針は徹底されており、接戦の展開で勝とうものなら、試合後「これじゃまるで強いチームじゃないか!」と言って監督に叱られるのである(!)。


 たとえば、監督と筆者とのやりとり。


 「(開成のセオリーについて)開成は普通ではないんですね」
 「いや、むしろ開成が普通なんです」
 「普通なんですか?」
 「高校野球というと、甲子園常連校の野球を想像すると思うんですが、彼らは小学校の頃からシニアチームで活躍していた子供たちを集めて、専用グラウンドなどがととのった環境で毎日練習している。ある意味、異常な世界なんです。都内の大抵の高校はウチと同じ。ウチのほうが普通と言えるんです(16ページ)」


 なるほど。なるほど。本書は、野球というスポーツについて我々の認識を新たにしてくれる。


 上の会話もそうだが、頭がいいせいであろうか、監督も含め開成野球部のメンバーは理屈っぽい。身体が反応する前に論理が先行する。「つべこべ言わずに思い切り振りゃいいんだよ」と著者は書く。だが実は高橋氏もまた「論理が先行する」タイプであることは「はい、泳げません」を読めば明らか。そんな著者の共感と優しさが行間から感じられ、シニカルさは影をひそめ、温かいトーンに仕上がっている。


 「はい、泳げません」は、著者自身の体験であるため、内容が身体と直結して、自身を徹底的に戯画化して面白く書くことができたのに対し、今回の「弱くても勝てます」は、取材対象が高校生であることもあって、視点が客観的で、シニカルさやコミカルさが少々後景に退いている。


 もちろん高橋流のとぼけたユーモアが全編に流れていて、読ませるのは確か。野球にさほど興味がなくても、マネジメント論として、いろいろな分野に応用できると思う。オイラは自分の指導する演劇部の姿と重ね合わせながら本書を読んだ。


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 ■高橋秀実「はい、泳げません」新潮社
  http://d.hatena.ne.jp/furuta01/20130214/1361054069