桜井章一「努力しない生き方」集英社新書
昨日のエントリでも触れた高橋秀実の「はい、泳げません」に、こんな一節があった。
「がむしゃらに泳ぐのはやめてくださいね」
桂コーチがやってきて優しく言った。
−なぜですか?
「がむしゃらは疲れますから。見ている方まで疲れちゃいます」
楽にきれいに。人目も配慮する彼女はやはりマイワシではなかった。
「泳ぐと足から疲れてくるので、足はほとんど動かさなくていいです」
−動かさなくていいんですか?
「はい」(中略)
もうバタ足をしなくてよいのだから、これは楽だった。後ろを気にしないので、気持ちが前に進む。足が開いている感じがしたら閉じるべきだが、感じがしないので、もう何もしない。ただ上半身だけ、ゆっくりと伸びる、・・・・・伸びる、・・・・・と繰り返す。
するとどうだろう。足の方からふわっと浮いてくるではないか。
足がゆらゆらしている。
水の中で、私の足がワカメのようにゆらゆらしている。そのゆらゆら感が次第にせりあがってきて、やがて全身がゆらゆらした。
まるで揺りかごに乗っているようだった。なぜか息の心配も消えている。揺りかごが右に振り上がった時に勝手に入ってくるからだ。
眠い。
と私は思った。なぜか眠気が込み上げてきたのである。このまま寝てしまうのは惜しい。ゆらゆらを保つため、水に従ってゆっくり腰をふった。揺りかごを楽しむ赤ん坊のように。ああ楽ちん。このふりに合わせて、腕を交互に後ろに送ってやればいいのである。
「できてます。できてます!」
桂コーチが叫んだ。
−わかりました!
私は立ち上がり、思わずそう言った。
私が泳いでいるのではない。水がゆらゆらと私を泳がしてくれるのだ。
「水泳って楽しいでしょ?」
−はい。こんなに楽しいものとは知りませんでした。
ありがとう、桂コーチ。おかげで魚類の仲間入りですと心の中で感謝した。(96ページ)
- 作者: 高橋秀実
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力を抜くと別世界が待っている。力を抜くことの大切さをしみじみと感じる。
同じ水泳に関して、いつも拝見しているtt555さんのHP「Walk in the Spirit」には、次のような記述があった。
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「足そうとすることから、「足そうとする力」そのものを「抜く」こと」
これが気に入って、今夜のスイムもずっと頭の中にこれがあった、
そして、メドレーで泳いだわけだが、特にバタフライの時、もう、これが、しっかりとひらめいてきていた、
あらゆる恣意的力を、徹底的に(意識的に)排除した、
壁を蹴って、前に進むその瞬間から、それは始まった、
前に進むその自然(慣性)の前進力、
頭を先頭に、体で作るうねり、
おしりは常に浮かせておくイメージ。
動作は、頭/胸の上下運動(浮き沈み)のみ、
ドルフィンキックはやらない、プルもやらない、息継ぎもしない、
実際はやっているが、意識の上にあるのは、頭/胸の上下運動のみ、
下半身は、動かさない、下半身は、勝手についてくる、
腕は、水をキャッチしない、腕は、浮き沈みに合わせ、肩から振り回すだけ、
バタフライはカンタンだ!
これだけで、前に進んだ、(進み続けた、)
意識を排除するので、当然、動きはチョーゆっくりとなる、
が、体が主体となって動く動きは、自分の意識がないにも関わらず、決してスローではない、
実に、なめらかないい動きをしてくれ、且つ、自然にスピードが付いてきてくれる、
こうして、スイム(バタフライ)を習い始め、7年目にして、新境地に達する、
そこには、およそ、力みがなかった、(イヤ、力みはあるけど、今までのレベルよりもはるかに低い力み、)
http://plaza.rakuten.co.jp/555yj/diary/201303260002/
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泳ぐことは、生きること。tt555さんは、桜井章一氏の「努力しない生き方」という本からインスピレーションを得たそうだ。桜井章一氏は裏プロの世界で20年間無敗の伝説を持ち、雀鬼と呼ばれた人物。オイラは麻雀のことは分からないが、こんな映像をみると、素直にすごいと思う。
「足し算的な発想や生き方は、間違いなく行き詰まりを見せ始めている。では果たしてそれに代わるどんな生き方があるのだろうか。本書で私が述べたかったのは、この足し算の生き方とは違うまったく新しい可能性を持った生き方である。それは足していくことを止めて、反対に足したものを引いていくような引き算的な生き方だ」(「努力しない生き方」4ページ)
オイラ自身を振り返ってみれば、いつも不必要な力みがあった。人生でも水泳でも教育でも演劇でも「努めて力まない」やわらかな生き方を身につけられるように意識したいとつくづく思う。
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