牛皿とワイン


おうち飲みワイン100本勝負 (朝日新書)

おうち飲みワイン100本勝負 (朝日新書)


 自炊することが多いのだが、人に食べてもらうときに、どう味付をしたらいいのか途方に暮れることがある。
 

 たとえば「牛皿」である。幼い頃に牛皿や牛丼を食べたことがなかったオイラは、甘いのも辛いのもオッケーで、どんな味でもそれなりにおいしいと思えてしまう。自分で作って食べるだけなら、適当に作っておしまいなのだが、食べてもらう相手がいて、その相手にこだわりがあったりすると、もうどうしていいかわからないのである。


 自分の中に基準があれば、自分の味を相手に押しつけられる。だが特にこだわりのない献立のときはどうしたらいいのだ。オイラは料理人には到底なれない。こだわりと同時に、人の嗜好を推しはかり、差し出すだけの器量と舌の精度がオイラにはないということだ。


 ワインの味も、実はよくわからなかった。飲む機会は結構多いのだが、オイラの中に見栄と偏見があって、甘いワインは女性が飲むものだとか思っていたのである。ところが、たまたまある甘いワインを飲んで、オイラの中で目からウロコが落ちた。


 おいしい。気にいった。これならいくら飲んでも飲み飽きない。それほど高くなかったので何本も買いこんだ。それからは、そのワインがオイラのスタンダードとなった。他のワインの味をはかるときは、このワインを傍らにおいて、飲み比べればいい。オイラのなかで基準がはっきりしたのだ。


 もちろん、このワインが一番だというつもりはない。ただ、感覚的なものは、基準がはっきりしないと評価できないのだ。その評価が世間的価値とかけ離れているのなら、基準そのものを示さなければ、他の人には理解されない。それは演劇でも教育でも文学でも同じだと思う。


 オイラのおいしいワインはこれです。白もイケます。


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