探偵はBARにいる2/ススキノ大交差点



 (内容に一部深く触れています)
 しばらく更新を怠っていた。学年主任として北海道への修学旅行の企画・実施に追われていて、ブログどころではなかったからだ。おかげで5月におこなわれた高知の演劇祭の感想も滞ってしまった。高知の皆様、すみません。こちらもすぐに再開します。


 さて「探偵はBARにいる2/ススキノ大交差点」である。前作「探偵はBARにいる」は秀作といってもいい出来だった。その魅力は、何といってもさりげない細部の映画的な作り込みにあるとオイラは思う。たとえば序盤、探偵が悪徳弁護士の事務所を訪ねていく場面では、いかにもな調度品や彫刻の数々とともに、なぜか机の上に本物のイグアナがいて、爬虫類の冷血なイメージが悪徳弁護士のイメージに重なるような絵作りがなされていた。またその直前には、同じ事務所の短いスカートの秘書が、階段を登るときに、大泉洋扮する探偵に、いわくありげにスカートの中が見えるように仕向けるのだった。観客へのお色気サービスというわけではもちろんなく(少々はそれもあるかもしれないが)、探偵への「悪の甘い誘惑」の隠喩という、いかにもな「映画的表現」だった。


 そう、前作は、どこかの映画で何度も繰り返されてきた小技をヌケヌケと使ってみせた。だが、セリフに頼らず状況を理解させるという意味において、「映画的」な小技を再加工してドンドン投入することで、観客の「映画的記憶」を刺激しよう、オリジナリティは二の次、一カット一カットの中に、映画的なハッタリやケレンを、濃密に詰めこんで、面白い作品に仕上げよう。前作には、そうしたエンタテインメント指向が徹底していた。高嶋政伸演じる殺し屋が、「ノー・カントリー」のハビエル・バルデム風だったりするのは、まさにそれであった。


 映画的なハッタリやケレンが、引用も含めて数多く刻まれていた濃密な前作と比べると、今回の2作目は、1作目ほどのインパクトと工夫を感じることができなかった。格闘やカーアクション、エロシーンは派手になったが、ただ単に暴れ方や絡み方が派手になり、時間が長くなった印象で、間延びして散漫な仕上がりに思えた。また、大倉山シャンツェのジャンプ台から探偵が突き落とされそうになる冒頭の場面を始め、札幌周辺の観光名所を前作以上に積極的に紹介しているのも(実は修学旅行に行って初めてそうした趣向に気がついた)、その場所が組み入れられている必然性に薄く、総花的な名所案内で終わってしまっているように思えた。苦心惨憺しながら示されるサービス精神のベクトルが、作品をよくしていこうというベクトルと、少しずれている感じがした。


 脚本は、悪い意味でストレートで説明的にすぎる。たとえば反原発派のリーダーで市民からカリスマ的な支持を受けている政治家、橡脇孝一郎(渡部篤郎)。事務所に単身乗り込んできた探偵に、オカマのマサコちゃんとの過去の関係を指摘されると、橡脇は「反原発の先頭に立っている自分がスキャンダルで失脚するわけにはいかない。だから見のがしてくれ」と語り、さらに、マサコちゃんが死んだ日の様子を、探偵の前で、ホイホイ都合良く語るのだった。プライベートなことも何もかも語るので、作り手の都合でストーリー進行に奉仕する書き割りの人物に見えてしまう。


 また、もうひとり、オカマのマサコちゃんを殺した「犯人」。彼は軽率な男で、自分が犯人である証拠を、探偵の前に思わずさらしてしまい、探偵に問い詰められる。「犯人」であることを認めてからは、まったく悪びれないまま、酔った勢いで殺人の動機を自分からペラペラと都合良く探偵に喋ってしまう。まるで観客に聞かせるかのように!(その直後、犯人は、何と「偶然」にも車にはねられて死んでしまう。告白はまさにGood Timingだったのだ!)そう、この作品に登場する重要な人物は、政治家といい犯人といい、セリフで重要な事柄を説明してしまうという共通の特徴を持っているのだ。まるでテレビのサスペンス劇場のように、作り手の都合で、物語のストーリー進行に奉仕する人物が次々と出てくるのである。登場人物の出来ということでは、テレビの二時間サスペンスドラマ並みに軽いのだった。


 ヒロインである尾野真千子は、一方で下品で庶民的な行動、もう一方では天才バイオリニストという相反する設定が、「魅力的な二面性」という解にたどりつくように造型されているようには思えず、オイラには不可解で中途半端な人物造型という印象だけが残った。この人は、NHKの朝ドラ「カーネーション」のヒロインで、端倪すべからざる存在感を示しただけに、こうした使われ方はとても残念に思う。


 一作目がよかっただけに、オイラはこの映画に期待していたのだった。北海道に修学旅行に行ったとき、一番に買った土産は、前作で大泉洋松田龍平の探偵コンビが、いつもポリポリと齧っていた「開拓おかき」。高校生の前で「探偵はBARにいる」は面白い、「開拓おかき」はおいしいと吹聴して回ったが、今回の続編に限っては、とくに触れることもないだろう。