人権啓発紙を発行する。


 勤務校で高校生向けに人権啓発紙第2号を発行する。内田樹「街場の教育論」の「キャリア教育論」の内容をかみくだいてペーパーに掲載した。以下、その内容を転載します。


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 本当に高校で学ばなければならないこと


 勉強するのは、自分のためです。勉強をすれば、成績が上がり、いわゆる「いい大学」に入ることができます。では、同じような要領で勉強すれば「いい会社」にも入ることができるのでしょうか。
 結論から先に言えば、同じような勉強では駄目です。就職は、大学受験とは別物です。


 就職では合格者をどうやって決めるのでしょう。内田樹先生の「街場の教育論」によると「5秒で決まっている」のだそうです。5秒で決まるとは、すごいですね。どうして5秒で分かるんでしょう。「5秒と言えば、受験者がドアを開けて入ってきて「こんにちは」と挨拶をしたくらいの時間。それまでに、○がつく人にはもう○がついている」のですから!


 実は、面接官が見ているのは、能力の多寡ではなく、「この人と楽しく仕事ができるかどうか」である、と内田先生は言います。会った瞬間、面接官は、気分が「よくなった」のか「悪くなった」のかを吟味しているというのです。その人の能力を査定するのではなく、自分の身体感覚をチエックするのですから、5秒で判断できるのです。


 忘れてはならないことは、労働は「協働」であって「競争」ではない、ということです。集団で作業し、専門的知識や技術を提供しあい、成果もリスクもみんなで分かち合う。だから、個人的能力は高くなくても、周りの人の力を引き上げることができる人が優先的に採用されます。内田先生の例えを借りると、いつも一〇〇点を取るヤマダ君よりも、八〇点しかとれなくても、隣の人に勉強を教えてあげるスズキ君の方が、上位に格付けされるのです。


 だから、普段から「自分をよく見せよう」とだけ思わないで、その場にいる人たちが、気分よくなるようにふるまえる人はポイントが高いです。つまらないジョークにも、にっこりと笑ってあげるとか、そういうことの方がむしろ大切です。


 でも今は多くの人が「個人の付加価値をどこまで高めるか」を競っている。違うんです。ペーパーテストの一点二点の差なんて、社会での人間の評価に本質的には何の影響もない。むしろ個人がバラバラになっている今だからこそ、仲間と連帯して物事をなしとげる方法を学ぶことの方が大切なのだ、内田先生の「街場の教育論」は、そんなことを考えさせてくれる名著です。


街場の教育論

街場の教育論