[本/文学]平智之「なぜ少数派に政治が動かされるのか」ディスカヴァー携書



 著者の平智之氏は、京都大学・UCLA出身で、喫茶店マスター、ラジオ・パーソナリティー、大学講師、テレビ・コメディアン、政策シンクタンクという多彩な経歴を誇る人物。2009年から衆議院議員民主党のち離党)を一期務めた(2012年12月落選)。少数派の特権階級が官僚制や政治家と結びつくメカニズムを、国会議員としての経験をもとに明快に示し、非常に興味深い内容である。


 平智之氏によると、原子力ムラの住民は約70万人。日本の人口に占める割合は、0.6%にすぎない。なぜ今の日本では、少数派のはずの利権集団の利益が優先され、多数派の反原発脱原発の声は十分に届かないのだろうか。


 それは、監督官庁である各省庁が、少数派の事務局機能を果たしているからだと平氏はいう。官僚は政治家に食い込む。議員の秘書を通じてアポイントを取り、議員会館の部屋を尋ね、「先生、実はこのたび」と切り出して、非常に分かりやすい資料を並べて説明を始める。議員が分からない点を質問すると、官僚は「そこなんです。まさにその点が、難しかったのです」と言って、実によい質問だと指摘する。国会議員も悪い気はしない。


 これに比較して、反原発デモやそこに結集する人々には。熱い思いはあるけれども、具体的な政策提言や財源案がない。理念は共感できても、政治家は行動ができない。反面、議員会館では、少数派の事務局が見事な事業計画を用意して待っている。どうしても国会議員は、この事業計画を聞いてしまう。


 また、監督官庁である少数派の事務局は、世論に対しても、情報操作をして誘導をはかる。「原発がなくなれば、電気が足りなくなる」「原発がなくなれば、発電コストが上がり、経済が低迷する」こうした情報のほとんどは、意図的な間違いだ。だが、日本の多数派は、もの言わぬ多数派であり、その多くは、少数の意見に消極的に賛成する人々である。誘導された情報に対して「仕方がない」と考え、心の底では原発反対であっても、消極的に原発推進に賛成してしまう。


 「事実をまず国民に知らせて、世論を醸成し、その結果として出てきた意見を吸い上げ、法案化していくというのが、望まれる法律形成のプロセスだが、日本では、そうしたことはほとんど行なわれない」。そうしたプロセスが実現できるための社会的仕組みをどう作るかを、オイラは考えていきたい。


 政治や官僚制やメディア批判をするだけでは、社会は変わらない。少数派の支配に打ち勝つためには、明快な対案と論理が必要である。法制化をめざすのなら、財政的根拠も必要だ。リベラル勢力は、残念ながらそうした政策作成の能力がないし、そもそもそうした発想を持たない。