チャイナ・シンドローム



 (ネタバレです)
 はじめて原子力発電所の事故を題材に取り上げたアメリカ映画。1979年。ジェームス・ブリッジス監督、ジェーン・フォンダジャック・レモンマイケル・ダグラス


 公開当時、直後にスリーマイル島原発事故が起こり、作品が現実を予言したことで話題になった。しかも、冷却水の低下からの制御棒が露出という内容が、2011年の福島第一原発の事故と重なる。先見性において希有の映画であると思う。


 30年たって現実が映画においついた


 パニック映画やデザスター映画は多いが、原発事故を題材にした映画は少ない。原発事故はヴィジュアル的に地味だからだろうか。この映画も、パニック映画やサスペンス映画としてみれば地味である。


 メルトダウンと事故のプロセスも、一般的観客からすれば専門的すぎてわかりにくい。しかし観客に迎合しない。分からなければ分からないでいいという姿勢。潔い。
 現実を単純化したり、過剰に説明的にしない。映画表現としては正攻法。状況を見せる。制御室をセットで再現し、リアルな所員の反応を見せる。少々くたびれたジャック・レモンや、名バイブレイヤーであるウィルフォード・ブリムリーの演技もリアルで、観客はそれを上の小窓からレポーターのジェーン・フォンダの視点から手に汗握りながら見る。最初ジェーン・フォンダも何が起こっているのか分からなかったのと同様、観客も分からない。観客はジェーン・フォンダと一緒に、起こっていることを解明しようとする。
 社会派の映画とは言え、娯楽映画の範疇で、観客に背伸びをさせる映画である。ある意味、啓発と教育の映画なのである。


 もっとも、東北地方太平洋沖地震福島第一原発事故のおかげで、この映画の内容は、理解されやすくなった。30年現実に先行していたのだ。現実がやっと追いついてきたのである。


 また1976年製作の「ネットワーク」と並び、テレビ局の裏側を描いた草分け的作品である。この映画では、秒単位を争うニュース製作(生放送)のスリリングさが、ラストの原子力発電所制御室に立てこもったジャック・レモンを生中継するという状況を、さらにスリリングなものにしている。ただし、終盤の制御室立てこもりの中継描写などは、ひねりに乏しく、今見るとやや単調。


被曝の恐怖を象徴する無音のラスト


 この映画、冒頭のタイトル部分以外に劇伴がつかない。情緒に流れず、リアルで、内容に合った処理だと思う。
 ラストのクレジットも無音。告発者であるジャック・レモンの死という悲劇的結末の後、必死で平静を繕おうとするジェーン・フォンダをブラウン管を通して見せる。テレビはスタジオに切り替わり、電子レンジの能天気なCM、ラストはテレビのカラーバー。そして無音のクレジット。現実の闇の深さと、音もなく忍び寄る被曝の恐怖を象徴する秀逸なラストである。


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 アカデミー賞受賞「ハートロッカー」のキャスリーン・ビグローが描くソ連の原潜事故。ハリソン・フォードリーアム・ニーソン
 自国のことを描くべきだ。欧米の人たちは、ロシア語で喋らないことに違和感を覚えないのかな。
 当時のソ連の原潜においては、放射線に関する管理がずさんだった。その点について、映画に批評的観点がないのがイライラさせられた。なぜ、君たちは被曝に関して無頓着なんだ!