楠原佑介「この地名が危ない」幻冬舎文庫


この地名が危ない (幻冬舎新書)

この地名が危ない (幻冬舎新書)


 著者は「災害地名学」を提唱する。古くから地震など災害の多い場所に、人々は「ここは危ない」というメッセージを込めた地名をつけてきたというのである。古い地名の分析が、今後の被災地の予想や対策につながるというのである。


 たとえば鹿児島の「桜島」は噴火口が「裂く」島ということだし、長崎雲仙普賢岳は「フケ・ヌ」、噴火しないでほしいという人々の思いを表現した地名だと言う。宮城県の「名取川」は、ナ(土地)をトリ(取り)、津波が土地を削り取った土地という意味である。「女川・小名浜」は、雄波(オナミ)に由来すると指摘する。中越地震震源地を流れる「芋川」は、「ウモ(埋もれる)カワ」だし、神戸にある「灘」は「ナ(土地)がタレる(崩れる)」に由来する。「阿波」「安房」は、本来海中にあったものが、地表にアハかれた(暴かれた)場所という意味であると言う。京都の粟田口も同じで、現に断層線が集中する場所だそうだ。


 かつて大学時代に地名の由来を少し研究したオイラには、こうした指摘になるほどと思う反面、地名の由来についての正解は誰にもわからないわけで、壮大な仮説の集大成という感は否めないと思った。地名を分析すれば地震の被害を減らせるとまでは言えないが、地名が人々に対するある種の警告になりうるということに目を向けさせてくれる本書や楠原氏の研究には、大いに意味がある、と思った次第。