プラサット・ヒン・アルン



 プラサット・ヒン・アルンは、香川県丸亀市綾歌町にあるニューレオマワールドという遊園地の一角にある仏教寺院のレプリカ。タイ人の設計で、アンコール朝の同名の仏教寺院の4分の1で再現したもの。1991年に完成。作られた当初はバブルの真っ只中で、建物がまだ新しく、いかにも人工的な「にせもの」といった雰囲気で、魅力的だとはお世辞にも思えなかった。


 昔は高校生とレオマワールドに遠足によく行った。スリルのある遊具しか目に入らない多くの高校生たちは、プラサット・ヒン・アルンを見て「ここには何もない」と言った。いわゆる「普通の高校生」は、ほとんど寄りつかない一角だった。あれから10数年。レオマワールドも不振が続き、経営主体が何度も変わったり、アトラクションや建物は老朽化したり閉鎖されてしまった。幸いなことに、プラサット・ヒン・アルンはそのまま残され、遊園地の中では人気のない場所だったことが幸いしたのか、今では無料エリア。その気になれば誰でもふらりと立ち寄ることもできる。


 十数年ぶりにその場所に立ってみた。手入れがあまり行き届いていないその周辺は、雑草も生い茂り、廃墟っぽい感じが強く、遺跡の雰囲気が以前よりかなり増していた。ほとんど人もいなかった。ところが、プラサット・ヒン・アルンは、その場所に驚くほどなじんでいた。遊園地といった晴れやかな場所よりも、うらぶれた場所の方が似つかわしいと思った。遊園地経営が不振なことが、この建物に関してはプラスに働いているような気がした。


 バブルの芳香をまとったエセ遺跡が(もちろんんメンテナンスはしているのだろうが)ある意味うち捨てられることによって、本物の「遺跡」に近づいた。しかも「バブルの遺跡」としては、正真正銘の本物だ。


 その20年という「時間」にオイラは改めて驚かされた。夏草や兵達が夢のあと。我々は「バブル」から20年以上生きた。高校生たちはバブルを知らない。


 動物園や水上マーケットのあったエリアは封鎖されて立入禁止となっていた。展望台は、周囲の樹木の背丈が伸びて、見通しがあまりよくなかった。反対に、一時閉鎖されていたブータンの城のレプリカである「タシチョ・ゾン」は、雰囲気に見事にマッチしていた。城中も公開されていて、ジグミ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク国王と后の写真が飾られていた。