週刊エコノミスト2011年3月22日号/西尾哲夫「新生アラビア語が生んだ“フェースブック革命”」



 なぜ中東革命は始まったのか?


 チュニジアから始まった中東革命は「民衆革命」と言われる。フェースブックツィッターの普及によって、西アジア各国の人々が団結し、立ち上がったのだと言う。しかし、オイラにはピンとこない。なぜ、フェースブックツィッターで革命が起こるんだ? フェースブックツィッターが便利であることは理解できるが、革命を引き起こすほど、スゴいコミュニケーション・ツールなのか?


 その疑問に対する答えが、週刊エコノミスト2011年3月22日号の西尾哲夫国立民族学博物館教授)「新生アラビア語が生んだ“フェースブック革命”」。オイラとしては、目からウロコだったので紹介したい。

 
 西尾氏は言う。「今回の民主化の動きは、フェースブックなど新しいコミュニケーション手段の広まりによって連帯が築かれた、と解説されることが多い。それは間違っていないが、さらにアラビア語特有の事情がある」
ふむふむ、それはどんな事情なのだろうか。


 フスハーアーンミーヤ


 「アラビア語世界には、大別してフスハーと呼ばれる文語と、アーンミーヤと呼ばれる口語がある。…フスハーアーンミーヤの違いは、日本語の話し言葉と書き言葉程度の違いではない。発音・文法・基礎語彙のすべての面で大きく異なっている」


 なるほど、それはまったく知らなかった。西尾氏によると、本や新聞はフスハー、ニュースもフスハー、国会の議論や大学の授業もフスハー。ネイティブのアラビア語話者でも、フスハーは難しいという。教養がある人は一握り、ということですな。


 対するアーンミーヤは、話し言葉。文字がないので、身近な人々との間のコミュニケーションは可能だが、大きなネットワークを作るには向いていなかった。ついこの間までは。


まずコトバありき


 「こうした状況に変化を生んだのが、ITである。漢字やひらがなのある日本語と違い、アラビア語は基本的に28字のアルファベットなので、コンピュータや携帯との相性は悪くな」かった。「<携帯電話が普及しても、アラビア語の入力環境はすぐに整わなかった」ため、「若い人々は、入力しやすいローマ字で、日常会話をメールに書き始めた」。「これが、アラビア語世界のコミュニケーションに劇的な変化をもたらした。話し言葉であったアーンミーヤが文字を獲得し、コミュニケーション範囲が口コミの世界から解放されたのである」。
 だから、民衆は、自分たちの思いをフェースブックツイッターに書き込み、それに呼応した人々によって、革命の輪はひろがっていったのである。

 
 つまり、自然発生的な口語運動なのだ。これは、日本の言文一致運動や、胡適魯迅が実践した中国の白話運動文学革命)にも通じる。まずコトバありき。自分たちのコトバが生まれたから、革命が起こった。何と本質的な解説。オイラは了解した。コトバの持つ力には、改めて驚かされる。


 ジャスミン革命は中国には広がらない


 同じ号には、松山徳之「格差不安はあってもジャスミン革命は中国には広がらない」という記事がある。2月下旬、中国でもジャスミン革命が3回呼びかけられたが、何も起こらなかった。その理由として、人々が昔より経済的に豊かになった点をあげている。「中国人は共産党政権が嫌いだ。しかし、政府の崩壊を期待する人はいない」政権崩壊は、内乱や飢饉の時代に舞い戻ることにつながるからだ。
 ましてや、革命は日本では起こらない。日本は豊かだからだ。考えてみれば当たり前のことである。
 フェースブックツイッターが普及するから、革命が起こるのではない。中東革命=フェースブックというところで、思考停止に陥っていた自分に気づくことができてよかったと思う。