人権旬間はじまる
オイラの勤務校での最大の人権関連行事である「人権旬間」に寄せて、教職員研修用に書いた文を転載する。下のタイトルは、旬間の統一テーマでもある。
「 心の声を聞け 〜ファイト! つなごうココロ なくそう差別〜 」
他者の声を聞くことは、コミュニケーションの第一歩である。人間関係は固定的なものではない。関係や状況に応じて変化する。たとえば同じ言葉を喋ったからといって、差別になる場合とならない場合がある。差別を見逃さず、正していくためには、事物の関係性をとらえ、事実を判断していく力が必要である。
「内向きのコミュニケーションに熱心な若者たち」
多くの若者たちは、コミュニケーションに関心がないわけではない。むしろ調和的なコミュニケーションには積極的である。携帯電話やメール等を用いた二十四時間のコミュニケーションは、活発に行われている。しかし、真の他者と濃厚に関わることには消極的で、人を傷つけることや自分が傷つくことを恐れ、相手の気持ちに踏みこまない。いわゆる「内向きのコミュニケーション」には活発だが、知らない人との出会いを積極的に求めたり、ひろく社会的な事柄に対する関心を持ち行動することなど、「外向きのコミュニケーション」には比較的薄い。そうした傾向はオイラの勤務校も同様である。
学校はコミュニケーション向上の場として機能してきた
学校は社会性を培う場所である。幸い、オイラの勤務校では、学校祭などの教育活動や部活動が、コミュニケーション能力を高めていく機会として効果的に機能している。城北祭に冷ややかであった生徒が、本気で取り組むことで「(クラスで取り組むことが)こんなに面白いとは思わなかった」と語った例もあった。クラスや部という「社会」が、リーダーシップや気配りを覚えていく場として機能しているのである。成功体験が、自信となり自尊感情を高めていくという意味において、学校の果たしている意味は大きい。知識の習得とコミュニケーション力の習得は成長の両輪なのだとつくづく思う。
一人ひとりが人権問題に主体的に取り組む生徒を育成することと、クラスや学校での人間関係を具体的に充実させていくことは無関係ではない。自尊感情を高めることとならんで、コミュニケーション力を充実させていくことは、人権問題に対する実践力を高めるうえで、不可欠な要素のひとつである。
人権問題学習をコミュニケーション向上のきっかけに
今回の人権旬間は、昨年に続き、いろいろな立場の人々、被差別の立場におかれている人、クラスメート、教員、保護者など、校内外の声や言葉を集めようと思う。他者の声を聞き、感性を揺さぶり、葛藤を経験し、連帯や団結を意識する。社会性を高めていく。「内向きのコミュニケーション」から「外向きのコミュニケーション」へ。身近な人間関係から。そしてクラス。それを学校に広げ、社会に広げていくきっかけにしたい。
テーマ「心の声を聞け」という言葉には、単に「話を聞け、知識を得よ」との願い以上の意味をこめたつもりだ。他者を意識し、古い自分の考えと葛藤することで、自分のありようを振り返り、成長につなげていけと言っているのだ。そのためには、感受性を磨くことも必要だ。柔軟な心を持ち、相手の話を受け止める構えを持つことも必要だ。
サブタイトルについて
「ファイト!」は、生徒たちへのエールである。雇用の流動化など、社会が不安定化しているなか、家庭等の問題を抱えている生徒も少なからずいる。苦境に押しつぶされて、生きる力を出し切れていない生徒もいる。
今回の人権旬間では、筋ジストロフィーという不治の病におかされ、首から下の機能を失いながらも、「なくしたものを数えるな。今あるものを120%活用せよ」の精神でハンディをプラスに変え、そして社会をも障がい者や高齢者の生きやすい社会に変えてきた会社社長、春山満氏の講演を通して、また、全盲になっても、明るく前向きに人生を謳歌する盲導犬ユーザー、山橋衛二氏の講演を通じて、常に前向きに生きることの大切さを生徒に伝えたい。春山氏は、自分の身体が難病に侵されたから仕方なく福祉関連の事業を始めたのではない。難病になりすべての筋力が失われたからこそ、そこにビジネスチャンスがあることを発見したのである。
自分のためだけにはがんばれない
サブタイトルの二つ目、「つなごうココロ」は「連帯しよう」ということである。本来は「連帯」という言葉を押し出したいのだが、おそらく生徒の語彙の中に「連帯」という言葉はすでにない。だから「つなごうココロ」とした。
内田樹は言う。「・・・人間が努力をするのは、それが「自分のため」だからではありません。「他の人のため」に働くときです。ぎりぎりに追い詰められたときに、それが自分の利益だけにかかわることなら、人間はわりとあっさり努力を放棄してしまいます。・・・・でも、もし自分が努力を止めてしまったら、それで誰かが深く苦しみ、傷つくことになると思ったら、人間は簡単には努力を止められない」(出典:ブログ「内田樹の研究室2011.10.18」)
つながることによって、パフォーマンスを最大化できる。しかし個人主義・能力主義が深く内面化された今の高校生は「連帯の作法」を忘れてしまっているように思える。ならばその作法の習得(by内田樹)を目指したい。
ヒントは身近にある
1学期の人権集会でも主題として取り上げ、城北祭のテーマにもなった東日本大震災。政治の停滞をよそに、私たちは、危機に際して助け合う被災した人々の姿、助け合う日本人の姿を見た。ヒントは身近にあるし、コミュニケーション向上については、本校のあらゆる分野で、これまでも確かに継続的に取り組んできていると認識している。