扉をたたく人


扉をたたく人 [DVD]

扉をたたく人 [DVD]


 アメリカ映画。妻をなくし人生に疲れた老教授(リチャード・ジェンキンス)が、ニューヨークで、ジャンベと呼ばれる太鼓を叩くシリア人青年に出会い、音楽のすばらしさに傾倒していく。しかし、青年はアメリカへの不法滞在が発覚し、パレスチナへ強制送還されてしまう……。


 ちょっとこれは感動した。省略のモンタージュと押さえた演出。テーマと関係のある必要なカットやセリフだけをギリギリ残した脚本や監督のセンスには驚かされた。トム・マッカーシー(監督であり脚本)の名前、これでしっかり覚えたゾ。


 印象的なシーンには事欠かないが、たとえば、犬を抱えた同じアパートメントのゲイの住人と老教授が会話をする場面がある。何げない描写のように見えるが、このシーン、教授に同性愛的嗜好がないことを観客に示す重要な場面として機能している。こういうサラリとした描き方がうまい。このシーンがあるから、シリアの青年と教授の関係を、観客は単なる「友情」として、安心して(?)見ることができるのだ。


 また、シリア人青年の母と恋人と一緒に、教授がボートに乗って自由の女神を見に行く場面がある。かつてニューヨークに船でやってきた移民たちは、最初に自由の女神を見ることで、ああ「自由の国」にやってきたんだと実感したそうだ。ここでは、現代の移民たちに、かつての移民が通ったルートを逆にたどらせることで、アメリカ人に刻みこまれた記憶を呼び起こさせる。アメリカは自由の国だったんだ、多くの人々を受け入れてきた寛大な国だったんだということを、声高に語らなくても思い出すことのできる、ニクイ場面である。こういう場面をさらりと挿入できるセンスに舌を巻く。


 教授がジャンベに興じ、リラックスしていく場面も、もう少し見たいなというところまででとどめる節度ある演出。そして感情を発露を押さえた演技・演出は、ここぞというときの教授の感情の発露や切ないラブシーンを、印象的な彫りの深いものにしている。


 見ながら僕は小津安二郎を連想した。非アメリカ映画的な匂いが、インターナショナルな映画のテーマとうまく調和しているのが好ましい。映画館で見えてよかった。