イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく」星海社新書


年収150万円で僕らは自由に生きていく (星海社新書)

年収150万円で僕らは自由に生きていく (星海社新書)


 本書の内容を一言で言えば、年収150万でも幸せに生きられるから、自由や時間を犠牲にしてお金を求める生き方なんてつまんないですよ、ということである。著者は、大企業を辞め、ブロガーとして生きる二十代の方。おおむねオイラも著者の主張に賛成。確かに、お金に縛られる人生なんてつまらない。だが、著者のような生き方は、普通の人には到底真似できないのではないか。


 この著者はメディアコンサルティングやブログ作成という特殊な技能を持っている。「その気になれば1000万は稼げる」とおっしゃる。年収1000万を稼ぐ能力を持つ人だから、年150万に収入を抑制して「余剰の時間を生み出す」ことができる。会社勤めをする普通の人が、自由に時間管理をおこなうことなんてほぼ不可能だし、ならば会社を辞めたとしても、日に1時間労働で年150万儲かるような特殊な仕事に従事できる人はほんの一握りだろう。著者のような生活を送るためには、ある種特殊なスキルが必要なのではないか。


 そんなこともあって、著者の主義主張を語る前半部は、オイラには一面的で観念的なものに思え、あまり魅力を感じなかった。ところが、第6章で、具体的なウェブサービスを紹介し、支出をおさえながら生活の質を高めていく行き方のヒントを提示する下りは、具体的な行動イメージがはっきりして、一転とても魅力的に思えた。


 シェアハウス仲間を集めることをサポートする「コリッシュ」。とくに単身者による住居のシェアだけでなく、子育てを一緒におこなうシェアハウスは面白いと思う。また、自宅の空いている部屋を旅行者に貸し出す支援をするウェブサービスルームステイ」、スカイプを用いた外国語学習は、リアル対面型の英会話学習サービスと比べると、時間当たりの単価はなんと20分の1になるという。


 販売サイトでは、日本を離れる人たちの不用品が格安で販売されている「クレイグスリスト」東京版の「Sayonara Sale」。ただ同然の価格でモノが譲渡される「ジモティー」「リブリス」。真面目な出会い系サイト「フリッグ」や「コーヒーミーティング」、使っていない自分のクルマを、使っていない時間帯だけ誰かに貸し出すことができる「カフォレ」・・・・。


 こうしたサービスのことをオイラが知らなかったこともあるが、業者という「中抜き」を経なくても、個人と個人がネットを通じてつながることで、格安で豊かな生活を送ることができる。そうした状況がすでに整い始めている。たいして使わないものを買い込んで、結局しまい込んで、捨てる。そんな暮らしを具体的に変えていけるサービスがすでにある。それは、とても魅力的なもののように思われた。


 教育について、強烈な筆者の指摘があった。積極的に「大学に行かない」という選択肢もありじゃないか、と言うのだ。大学の学費は高い。大卒というラベリングの価値も低下している。大学に行かなくても学ぶことはできる。しかも格安で。これに対して、オイラが勤務している高校の現場は「大学に行かないとまともな社会人になれない」という一面的な価値観に染まっていないか。そのことを改めて自覚させられた。



コリッシュ