谷川俊太郎:作/堀内誠一:絵「ことばのえほん1/ぴよぴよ」くもん出版


ことばのえほん1 ぴよ ぴよ

ことばのえほん1 ぴよ ぴよ


 絵本である。ひよこの冒険物語。割れたタマゴ。生まれたばかりのひよこが、初めて出会う動物や人間、できごとに出会い、最後は母親であるメンドリのところへ帰っていく。


 それぞれの絵にひとつずつのオノマトペ(擬音語)がついている。「こけこっこう」「めええ」「もーう」「しゅばしゅばしゅば」「わんわん」・・・・。絵本は大人の本と違って、子供に読んできかせるのが前提だから、読み手が発した「音」によって言葉が聞き手である子供に届く。読み手と聞き手の両方が存在しないと、読むという行為が完結しない。普通の本なら、たとえ声に出して読んだとしても、誰かに聞かせるということはあまりない。オイラは改めて「読む」ということの意味に思いを馳せた。


 オノマトペ(擬音語)をどう読むかは話し手の裁量である。「わんわん」を言葉の音に忠実に読んでもいいし、実際の犬の吠え方を真似て読んでもいい。あと、読むにあたって、ちょっと手ごわいオノマトペもある。「しゅばしゅばしゅば(ヘリコプターの音)」「すてん(ひよこが転んだ音)」「むしゃむしゃ(少年がカレーを食べる音)」など、あなたならどう読むだろうか? 谷川俊太郎の「ニヤリ」も聞こえるようだ。


 そうそう、大人向けの本で、読むことを前提にした本がある。それは、戯曲である。「絵本を読む」という行為は、演劇とどこか似ている。書かれていない部分を、読み手の表現力や聞き手のイマジネーションや裁量で埋めながら、「声」を通して世界を完成させていく。余白を楽しむ。この絵本はそんな本である。


 堀内誠一の絵も、そんなふうに書かれている。マジックの筆跡を生かした、まるで子供が書いたような、手書きのラフな味わい。白い余白を巧みに反転させ形にする。抽象的で暖かみのある、飽きのこない絵が好ましい。また、絵本のストーリーも、生まれたてのヒヨコが、父親のオンドリの声をきっかけに冒険し、ラスト、母親メンドリのところへ帰っていくという、「冒険」と「心の安心基地」の物語に忠実に沿っている。これも飽きのこない仕掛けである。初出は1972年と古いが、まったく古さを感じさせない、名作絵本だと思う。