あんの秀子「マンガでわかる百人一首」


マンガでわかる 百人一首 (池田書店のマンガでわかるシリーズ)

マンガでわかる 百人一首 (池田書店のマンガでわかるシリーズ)


 百人一首である。高校の古典の授業で覚えさせられたが、オイラ、なかなか覚えることができなかった。
 本書は「マンガやイラストで歌の意味や背景を大づかみすることができ、さらに本文やコラムでは、言葉の詳しい用法や歌人の生きた時代や経歴について踏み込んでいけるように構成」されていて、「読みすすむうちに、昔の人の恋愛模様、自然の風物や季節に対する思いに触れ、言葉に対する繊細な感覚や今と変わらない心情を知る」(「はじめに」より)」ことができる仕掛けになっている、とのこと。


 その言葉に偽りなく、スイスイ頭に入ってくる。マンガの力は絶大だ。また、歴史的背景などに関するコラムなども、和歌を覚えるには役に立つ。教科横断的に知識を関連づけた方が、理解は進むのである。教科書を薄くして、それぞれの教科内容を精選したのは、教育行政における痛恨の失敗だったとオイラはつくづく思う。
 ああ、オイラの高校時代にこの本があったら、どれくらい楽だっただろ。オイラの頃のテキストは、ここまで充実していなかった。「これ便利だよー」と、今の高校生にも教えてやりたい。


 それにしても、百人一首には、恋の歌の何と多いこと! コラムによると、100首中43首。選者の藤原定家が叙情を重んじたため、と書かれていたが、恋に関しては、和歌を使って意志表明することが許された、よい時代だったのだろう。これだけたくさんの恋の歌が並んでいるということは、昔の人も今の我々と変わりなく、いや今以上に、のぼせあがったり、悶々としたりしていたのだろう、そう思うと、ほほえましくも感じるし、そんな人間的な感情に、オイラはほっとする。


 携帯もメールもなく、意志疎通も難しい時代。和歌はコミュニケーション・ツールとして、実用的に機能していた。恋愛においてはとくに。
 逆に、子供がかわいい、とか、こんな食べ物がおいしい、とかいう歌はない。育児や家事は、貴族の仕事ではなかったから、それほど歌に詠むべきことではなかったのだろうか。