森田芳光逝去


 突然のことで驚いた。61歳。惜しい。あまりに若すぎる。
 オイラが常に影響を受け続けた映画監督だった。「家族ゲーム」(1983)をオイラが見たのが大学の時、どこにでもある日常をスリリングに描く斬新な見せ方に魅了された。同じ松田優作主演で、その代表作となった「それから」(1985)、パソコンを小道具に用いた恋愛映画「ハル」(1996)、「39 刑法第三十九条」(1999)は、役者に肉薄するカメラの迫力と役者の迫真の演技で、オイラのオールタイム映画ベスト10の一本。大竹しのぶの怪演が異様な迫力を生んだ「黒い家」(1999)など、常に問題作を発表し、日本映画に刺激を与え、牽引し続けてきた。失敗作「模倣犯」(2002)でさえ、その失敗の裏に新しい作品にチャレンジし続けようとする創作者としての誠実さをオイラは見て、駄目な作品と斬り捨てることはできなかった。本当なら今後も刺激的な作品を作りつづけて、日本映画の巨匠と呼ばれる存在になるべき人だった。ご冥福をお祈りします。



 よくできた原作をズタズタにして、映画化を心待ちにしていた原作ファンを失望のどん底に突き落とす森田芳光・・・・前もよく似たことがあったなあ。確かあれは「模倣犯」のときだったよなァ・・・・・。


 観終わったすぐは、ひどい原作処理にオイラは強く強く失望したのだが、よくよく冷静になって考えると、ドラマをどう解体するか、それが森田芳光のテーマだったことに思い至る。「模倣犯」など、まさにそれで、解体に解体を経て、完成したフィルムは、もはやドラマとしての体をなしていなかったほどだ(原作者の宮部みゆきは、当然不快感を表明していた)。
 常にチャレンジングで手垢のついた表現を反復することを潔しとしない才人森田芳光なのだから、ラジカルな表現に行き着くのは当然の帰結なのかも知れない。左翼的心情を胸に、ドン=キホーテのように生きるこの映画の豊川悦司演じる父親の姿が、オイラには森田の姿と重なった。オイラは共感する。


 そして、もうひとつ感心したのは、この映画がきちんと「映画」であることに気づく。スクリーン上ですら、テレビ的表現が満ちあふれている昨今、たいしたものだなあ、やはり森田だなあと思い直した次第。


 ひとつひとつのカットに力がある。たとえば、冒頭の無人の冷たいプールのカットが、実は後半の西表島の青い海と対比されている点などは、無意識に効いてくる優れた森田的カット。また、ラストの、船上のトヨエツと子供たちのパンフォーカスも、映画ならではのじっくり設計されたショットで、映画ならではの醍醐味を感じる。原作のドラマ展開を大幅にカットし、愛すべき役者たちの存在感やたたずまいをひきたてているのも面白い。とくに、沖縄の役者さんたち(素人さん?)のとぼけた味といったら! トヨエツに肩を抱かれる悪の町会議員さんは個人的に最高でしたね!