「男たちの旅路」第4話「廃車置場」


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 今こそ「男たちの旅路」である。
 1970年代後半に作られた、このNHK制作のテレビドラマを、すべての日本に住む人々が見直すべきである。
 「男たちの旅路」ほど、大人とは何か、強く考えさせてくれる作品をオイラは知らない。


 今の日本には、大人がいなくなった、と内田樹はいう(内田樹の研究室2012年7月13日「いじめについての続き」)。自分のことしか考えない。公共の福利に配慮しない。身近にいじめがあっても「やめなさい」と言わない。今の学校にも教育行政にも「大人」を育成するという体制は存在しない。「「グローバル人材」のような「能力が高くて、賃金の安い、規格化された労働者」」を作るシステムだけがある。


 だからこそ、今こそ「男たちの旅路」である。徹底して「大人」の振舞い方を教えてくれる。脚本家の山田太一の面目躍如である。


 第4話「廃車置場」にこんな場面がある。


 新しく警備会社に入ってきた鮫島壮十郎(柴俊夫)は、納得のいく仕事がしたいから、警備する場所を選ばせてくれと言う。上司の吉岡(鶴田浩二)は、鮫島の姿勢に共感し、社長にかけあい、特例を認めてやる。
 鮫島の勤務する研究所の外の道路で強姦事件が起こる。実は警備していた鮫島と陽平(水谷豊)は、直前に女性の声を聞いていた。「なぜそのままにした」と吉岡に問われて、鮫島は「事件があったことは残念ですが、私たちの警備範囲外ですから、やむをえなかったと思うしかない」と答えると、いきなり吉岡は鮫島を殴り倒したのだった。


吉岡 馬鹿者!
陽平 なにすんだよ!
吉岡 (鮫島に)それが仕事を選んだ人間の言い草か。なぜ金網の外へ出なかった。なぜ声を聞いたら道へ出て、その声をつきとめなかった。まともな人間てものはそういうもんだ。悲鳴を聞いたら、どこで聞こえてもそこへ走るのが、人間てもんだ。仕事の範囲じゃなけりゃ出ていかないのか。お前もそんな野郎だったのか。
陽平 ちょっと待ってよちょっと。声を聞いてどこへでも行ってたら仕事はどうなんよ。
吉岡 声を聞いたら飛び出してつきとめるのが人間ってもんだ。仕事の範囲から一歩も出ないなんていうのは人間じゃない。
陽平 だけどね。
吉岡 お前も殴られたいか。
陽平 殴られたくないです。
吉岡 仕事を選んで、イキイキ仕事をしたいというのがお前の希望じゃなかったのか。
鮫島 はい。
吉岡 そんなことで、仕事が生き生きできてたまるか。仕事をはみださない人間は私は嫌いだ。なぜ警備の範囲などということを考えた? なぜ飛び出していかなかった? 仕事から、はみ出せない人間にイキイキした仕事などできん。それが人間の仕事ってもんだ。


 オイラは中学時代に見たが、その頃からオイラは成長できただろうか。
 今見ても吉岡は、オイラの模範である。


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