ガキ帝国(のラストについて)


ガキ帝国 [DVD]

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 (結末について触れた記述です)
 いつも読ませてもらっている「Walk in the Spirit」より。「死は終わりではなく、その両者の世界の間の暖簾に過ぎない。その暖簾をくぐる、それだけ」というフレーズが心に残る。


 9/1に映画「ガキ帝国」について触れたのだが、映画史に残るラストの名場面「ビール一本」というセリフがなぜ鮮烈なのか、考えた。


 ラストはこうである。不良グループとの抗争から数年、少し大人になったケン(趙方豪)は、ある夜、機動隊員となったかつての不良仲間と出会う。権力をカサに着て生意気な口をきく仲間を、したたかに殴ると、怒り狂った機動隊員たちをフリ切って逃げ込むのは、大阪・ミナミのど真ん中(法善寺横丁あたり)。ケンは飲み屋に飛びこみ言う。「ビール一本」と。でおしまい。



 唐突な終わり方である。説明的でないがゆえに、不思議な余韻を残す。「ヒーローショー」もそうだが、井筒和幸監督は、こうした唐突で印象的な終わり方を好んで描く。見ている側は「ビール一本」という言葉でなぜ感動するのか、普通の人はすぐに言語化できない。オイラもそうだ。しばらく「ビール一本」について悶々としたのだった。


 今回、「Walk in the Spirit」で、「死は暖簾をくぐるようなもの」というフレーズを見て、「ガキ帝国」を思い出した。ケンは暖簾をくぐって飲み屋に入った。暖簾は大人社会の入り口。ビールは大人社会の象徴。ケンカに明け暮れ、大阪ミナミの最も深い場所を、全力疾走して這いずり回っていると、ふと自分が大人になっていることに気づく。暖簾は「ガキ」と「大人」を分けるもの。そう考えると、このラストは「ガキ帝国」という映画の終わりにふさわしいと思えてくる。


 「暖簾」「ビール」「飲み屋」といったものが、イメージを喚起する小道具として、適切に配置され、巧妙に仕組まれている名場面であることを、改めて認識した次第。


 フルタルフ文化堂「ガキ帝国」レビュウはこちら
 http://d.hatena.ne.jp/furuta01/20120901/1346532501