「風立ちぬ」ラストについて



 (ラストに触れています)
 (9月2日よりのつづき)「風立ちぬ」は、宮崎駿の「辞世の句」である。老境に達した彼なりの「落としまえ」である。最後のカット、夢の草原で、カプローニが二郎に言う。「寄っていかないか。いいワインがあるんだ」。そして、二郎は、風が吹く草原の中に沈みこむように飲み込まれていく。このカットは、ゼロ戦の開発を通じて戦争に加担した二郎が、あたかも地獄へ堕ちていくことを暗示しているかのように見える。


 これを観て、井上光晴の晩年を描いたドキュメンタリー「全身小説家」を連想した。「全身小説家」のラストカットは、階段を上って二階に消えていく井上光晴の姿で終わる。その姿は、昇天していくようにも見え、彼の死を暗示する秀逸なラストだった。


 「風立ちぬ」のラストは、草原の地面の底へ下りていくいわば逆ヴァージョン。宮崎が「全身小説家」をどこまで意識したかは知らないが「生きねば」という肯定的なメッセージとは裏腹に、図らずも戦争に加担してしまった二郎の苦悩と後悔を、アニメを描き続けた宮崎駿自身と重ねあわせて、いつかは訪れる自分の死を投影させた、極めて自嘲的なニュアンスの強い、宮崎駿の私的なラストに思えた。(終わり)


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 関連エントリ
■[映画]「風立ちぬ」その1
http://d.hatena.ne.jp/furuta01/20130901/1378156313
■[映画]「風立ちぬ」その2
http://d.hatena.ne.jp/furuta01/20130902/1378241580