釈徹宗・秋田光彦「仏教シネマ」文春文庫


仏教シネマ (文春文庫)

仏教シネマ (文春文庫)


 二人の僧侶が映画について語る対談本であるが、後半になると、映画論というよりは、奥深い人生論・社会論の様相を呈してくる。掛け値なく宗教的叡智の凄みを感じさせる一冊で、これに影響されて、オイラは次のような文章を高校生向けに書いた。一部加筆して掲載する。


 「日本の現代語には、応援する言葉が少ないんですよね」(釈徹宗


 応援する言葉としてすぐに思い浮かぶのは「がんばろう」ですね。よく使われる言葉ですが、何でも「がんばろう」ですませてしまうだけでは、一方的なような気がします。


 「がんばろう! 日本」というフレーズが連呼されていました。東日本大震災の時です。それを聞いて、あるお坊さんは言いました。「人は、がんばれないときもあれば、がんばらないほうがいい場合もある。「がんばろう」は、人が静かに悲しむ機会を奪っている」


 これのエピソードを知ったのは、釈徹宗師と秋田光彦師という二人のお坊さんの対談本「仏教シネマ」(文春文庫)を読んだからです。釈徹宗師は、大阪で住職をつとめるお坊さん。師によると「がんばる」という言葉は、もともと仏教語で、「我を張る」という意味からきているそうです。


 釈徹宗師はいいます。がんばっていればいるほど、人は、自己本位なイメージに毒されやすい。たとえば私たちは「オレはこんなに頑張ってるのに、なんでお前はがんばらないんだ」という目で人を見てしまったことはないでしょうか。皆それぞれの事情を抱えているかもしれないことを、忘れていることはないでしょうか。


 「正しいからこそ過剰になったり、相手を傷つけたり、自分自身が苦悩することもあります。人間というのはなかなかやっかいな生き物です」(釈徹宗師)