「日本外国特派員協会」へ行く。




 僕の勤務校(高校)は総合学習に力を注いでいる。数年前までは文部科学省の研究指定校でもあった。今回の修学旅行では東京一日研修があるのだが、これは総合学習の調べ学習を兼ねている。各自がそれぞれの場所に行き調査・取材をするのが、今日のメニューである。

 目的地はさまざまである。博物館や美術館をはじめ、企業・大学・政府機関など多岐にわたる。なかには国会議事堂、法務省、英国大使館、ユニセフ協会、東京税関、最高裁判所などもある。

 僕は5人の生徒に同行して、有楽町にある「日本外国特派員協会」というところに行く。ジャーナリズムに興味のある生徒が海外の記者と話がしたいというので、引率に駆り出されたわけだ。


 東京は雨。

 有楽町の駅からすぐ、有楽町電気ビルの北館の20階に「日本外国特派員協会」はあった。ジェネラル・マネージャーの小林さんという方が、笑顔で応対してくださる。話を聞かせてもらえるのは、バングラデシュから日本に来ている新聞記者のモンズール・ハクMonzurul Haqさん。気さくで落ち着いた感じの紳士であったが、あいにくと日本語ができないということで、小林さんに通訳をしていただいた。どこの馬の骨とも分からない我々にいたれりつくせりで、とてもありがたかった。

 

外国人記者も日本の報道のありかたに問題を感じていた


 バングラデシュ人記者のハクさんとの話の内容は、バングラデシュと日本のメディアの違いから始まって多岐にわたった。生徒も英文で質問を考えていたようで、たどたどしい英語で質問した。「JR福知山線で起こった列車脱線事故についての日本の報道のあり方をどう思うか」彼女は新聞部の生徒である。

 ハクさんは次のように答えた。


 ハク「被害者に対する取材は必要である。取材がないと被害者救済や保障・支援も行われないおそれが生じる。しかし報道が私人のプライベートな範疇まで干渉して生存まで脅かすのは間違いである。日本のメディアが人命救助をしないなど、人間としてやるべきことをしないのは大いに問題。競争が過激になりすぎると問題が多い」

 ハク「テレビに代表される日本のメディアの問題は、エンタテインメント性が強く、社会性のある真面目な問題からずれてしまうのは問題である。テレビは問題をそらしてしまう」


「他社を出し抜こうとする傾向が強すぎる」


 取材後そのまま食事・見学をして終了の予定だったが、途中でイタリア人記者のピオ・デミリアさんが乱入。「5分くらい」ということだったのだが、結局一時間近くも話を聞かせていただいた。

 ピオ・デミリアさんは陽気な中年のおじさんで日本語も堪能だった。「飯島愛はボクの友達」「世界で一番うまいのは日本食とイタリア料理」映画の話を振ると、「オズ、ミゾグチなどはヨーロッパではとても有名。(学生に)君たちは見てるかね。(見てないと学生がいうと)こりゃ教育に問題があるな(笑)。普通の日本人はハリウッド映画しか観ない。「鉄男」の塚本晋也三池崇史もイタリアでは有名。君たちは観てるかね?」


 生徒がJR福知山線列車脱線事故報道について聞くと、ピオ・デミリアさんは「許せないね」と答えた。「他社をだしぬこうとする傾向が強すぎる。ヨーロッパの記者は国境を越えて協力するよ。日本の記者は記者である前に○○新聞の社員だ。これが問題。イタリアでは記者には国家試験があり、記者は記者の地位が保障されている。記者は社の意向ではなく、自分の判断で書きたいことを書くよ」とのことであった。