週刊ダイヤモンド2011年8月27日号野口悠紀雄「超整理日記574/「消費税の目的税化は増税のためのトリック」


週刊 ダイヤモンド 2011年 8/27号 [雑誌]

週刊 ダイヤモンド 2011年 8/27号 [雑誌]


 消費税増税がよく口にされる。国民が増税を受け入れるためには、その必要性を国民に納得させることである。そのためには、説明にウソやごまかしがあってはならない。しかし、実際にはウソやごまかしが極めて多い。
 そのひとつが「消費税引き上げ分は、社会保障に充てる」というレトリックである。
 野口悠紀雄は、すでに何度も「このレトリックはインチキである」と看破してきた。だが多くの一般の人々の間では、インチキであるとの認識は、十分広まっていない。むしろ口当たりのいい言葉として受け取られている。だから何度も書くのだろう。今回の週刊ダイヤモンドのコラムの内容も、従来の主張を踏襲したものである。ここでは野口の主張を要約してみよう。


 予算総則には、1999年度から「消費税の収入はは高齢者3経費(基礎年金・老人医療・介護)に充てる」とされている。「社会保障・税の一体改革」にも「消費税を原則として社会保障目的税とすることを法律上、会計上も明確にすることを含め、区分経理を徹底する等、その使途を明確化する」と書かれている。社会保障(3経費)を消費税でまかなうと、2015年度で約12.8兆円足りない。それを埋めるのが増税分である。
 仮に消費税が5%増税されたとしよう。すると、今まで社会保障に充てられていた12.8兆円は余る。自由に使える。そこで政府は、その収入を国債減額に使える。つまり「社会保障のために減額したのではなく、国債減額のために増税したのである」のである。
 また、12.8兆円を使ってムダな経費を増やすこともできる。つまり、どんな財政運営をしたところで「増税分は社会保障に充てた」という説明が可能なのである。

 
 また、「増税分を社会保障に充てる」というのは「社会保障が今後増えれば、それに応じて増税する」ということでもある。つまり、社会保障費の増大に伴って、際限のない増税が許容されてしまう。結果、必要な財源が自動的に確保されるために、社会保障費を抑制する努力もなされなくなる・・・。

 
 元大蔵省出身で官僚のレトリックには知悉している著者らしい鋭い指摘である。この件に関しては、野口の知見というレベルを越えて、社会常識として、もっと定着しなければならない考え方であるようにオイラは思う。なぜマスメディアはこのことを黙殺するのか。何度も指摘する野口のいらだちが伝わってくるようだ。


官僚のレトリック―霞が関改革はなぜ迷走するのか

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 古賀茂明氏とともに、渡辺喜美行政改革担当大臣のもと、2007年から補佐官を務めた著者が見た、公務員制度改革が挫折し変節していくプロセスの詳細。安倍総理のときをピークとして、後退していく改革が、生々しく描かれている。言わば挫折の書でもある。古賀氏の「日本中枢の崩壊」よりも、こちらの方が、官僚の狡猾さがリアルに生々しく、客観的に描かれている。