上杉隆・烏賀陽弘道「報道災害【原発編】−事実を伝えないメディアの大罪−」幻冬舎新書


 記者クラブ批判を継続的に行なっている上杉隆が、元朝日新聞記者でフリージャーナリストの烏賀陽弘道と行なった対談を新書化したもの。日本のマスメディアが、権力を監視する役割を放棄し、結果的に原発事故の被害が拡大していくサマが、詳細かつリアルに記されている。既存メディアは本当に駄目になっていることを実感する。


 南相馬市でインタビューした土建会社経営47歳のおっちゃんはこう言ったそうだ。「いやぁ、オレたちは今まで北朝鮮のことを『ひどい国だ』『悪い国だ』『自由がない』って言っていたけど、日本も同じだよなぁ」と(45ページ)。国は本当のことを言わない、それを報道とかメディアがダメとも言わないし、検証もしない。もっとも呆れたのは、「安全ですよ」と国や東電の発表を垂れ流しながら、記者たちは原発事故があった直後に50km圏外、60km圏外へ逃げている。


 こうした記者たちが、上杉隆を「金儲けに熱心だ」と誹謗中傷する。2chやwikiで上杉隆を検索するといい。どれだけ悪意ある記述で満たされているか。その下劣さに唖然とする。ここにもジャーナリズム全体の品位と信用を落とす内容がある。
 上杉が「ジャーナリスト無期限活動休止宣言」を発表したのも苦汁の選択という意味では理解できる。「国際的にフェアな仕事のできない日本のメディアにかかわることは、自分自身も犯罪に加担しているととられる」という姿勢ももっともだ。


 多くの人に本書が読まれることをオイラは望む。記者クラブの官僚化という劣化は、実は日本の多くの組織にあてはまる。ひとごとではない。記者クラブの劣化の中に、オイラは教育の劣化、学校の劣化をみた。そのあたりの話はまた別の機会に。