石渡嶺司/山内太地 「アホ大学のバカ学生−グローバル人材と就活迷子のあいだ」 光文社新書


アホ大学のバカ学生 グローバル人材と就活迷子のあいだ (光文社新書)

アホ大学のバカ学生 グローバル人材と就活迷子のあいだ (光文社新書)


 過激なタイトルとは裏腹に、大学・学生・就活等の問題を網羅している、いたって真面目な内容。著者のスタンスも極めて良識的で、頑張っている大学関係者や学生の側に立ち、それを応援するというスタンスで、好感が持てる。週刊ダイヤモンド12月10日号と内容的には大きく重なる。http://d.hatena.ne.jp/furuta01/20120110/1326211513


(以下、オイラはこう考えます)


 大学が大きく変わっている。大学は、広告塔として優秀な学部学科の売り込みに熱心である。大学側の事情も理解できる。しかし、同時に力を入れなけれならないのは、割れたパイプから、落ちこぼれていく生徒への支援である。学力不足・対人スキル不足の学生に対する対応である。この部分は、労多くして功少ないので、文部科学省が主導して積極的に推し進めるべきだと思う。財政的支援も必要になるだろう。優秀な生徒の育成は、大学側にまかせればいいのである。


 また、高校においても、学力に問題のある生徒、対人スキルに問題のある生徒にも、学力を保障する制度を導入するべきである。そのために人員を配置する。予算措置・法的措置が必要である。


 学力的に不十分と思われる生徒には、学力補充講座を必修とする。赤点を取った生徒は、決められた講座を履修しないと、卒業認定されないシステムにする。教師は赤点をつけることに躊躇してはならぬ。フォローのために、十分な補充時間数を確保し、きちんとしたリメディアルのためのカリキュラムを用意する。これは懲罰的措置ではない。ましてや学校の「やりました」というアリバイ作りでもない。社会で通用する人間を育成するという視点に立って、制度として導入する。
 政治家の方で、どなたか関心のある方はいらっしゃいませんか?




《本書の内容要約と感想》


 第一章は、学力の低い大学生の話題と、補習教育をおこなっている日本橋学館大学の取り組み。SNSの不用意な書き込みで就活を不利にしてしまう学生の話などにも触れている。ボーダーフリーの大学は誰でも入れるようになっている。おまけに最近の十代の高校生の学力低下は著しい。だから学力低下のバカ話は、探そうと思えばいくらでも出てくるだろう。しかし本書ではほとんど触れられていない。本書の意図は、バカ学生の揚げ足取りにはないことは明白だ。


 第2・3章は、大学広報の問題点と大学の改名のパターン分類。広報の問題とは要するに学生募集の問題点である。大学は不器用なのだと思う。そうした不器用さを筆者が揶揄するような内容が並ぶ。しかし、大学は鷹揚ぐらいでちょうどいいのではないか。大学間の競争激化はひどい。1990年には507だった大学の数が、2011年には780。少子化で学生の数は減っているのに、多くの大学が定員を増やしている。


 第4章は、就活をめぐる問題点と有料セミナー業者批判。就活の現状を的確に突いていて、読みごたえのある章であった。何でもかんでも安易にマニュアル化し、商売しようとする業者と、マニュアルを求める学生。何事も近道はないということですな。「効率重視の学生は効率重視の企業によって切り捨てられる」「自称・真面目な学生は、「バカ学生」とバカにしていた他大生に負けていく」「宿題をほおりなげて遊びにいくバカ学生は就活で成功する」といったまとめの指摘は興味深かった。


 第5章は「面倒見のいい」大学の学生支援の現状。学力支援をおこなうのはボーダーフリー大学だけではない。東大や早稲田大でも、学生支援はおこなわれている。難関大の学生でも、学力は足りていないのが現実。また、人間関係のスキルにも格差が生まれ。友達作りも大きな課題となっている。支援を積極的に行うことには、筆者は評価をしている。


 第6章は、明治・大正期のバカ学生の記録。歴史をひもとくことで、今の学生が、特別にダメな大学生ではないことを検証する。「学生はバカ」「大学はダメ」と一刀両断に切り捨てるのではなく、今の学生を客観的に評価し、大学についても地道に教育する大学を評価するという筆者のスタンスがよくわかる。


 第7章は、定員割れ大学の大学再生の具体例。外国人教員比率全国一、すべての授業が対話型の宮崎国際大、小人数教育でリベラルアーツ指向の立命館アジア太平洋大、ヤンキー学生のマナー向上をなしとげた長岡大、徹底した消防・警察・海上保安庁への就職支援を行う千葉科学大、親を巻き込み徹底した就職支援を行う金沢星陵大。
 「途中経過をアホだバカだと非難するのは簡単だ。だが、苦労しながら、できなかった学生を育てて社会へ送り出すこれらの大学は、知名度が低くても定員割れでも、価値ある大学である。アホだバカだと言っている著者が何を偉そうに、と思われるかもしれないが、著者はこうした大学を応援していきたいと思っている」(225ページ)


 第8章は、グローバル人材を育成する大学の対応のあれこれ。教養教育・英語での授業・小人数授業を徹底する秋田県の国際教養大、留学生を積極的に受け入れる立命館アジア太平洋大、英語の講義、1年間の海外留学を必須とし、ゼミ、プレゼンも卒業研究も卒論も英語、日常会話まで英語という早稲田大学国際教養学部。実験三昧の「特進クラス」という趣の甲南大学フロンティアサイエンス学部。