徳野貞雄「農村の幸せ、都会の幸せ−家族・食・暮らし」生活人新書 その2


 2/1のエントリーの続き。「消費者は化け物」「妖怪飽食丸」。毒舌全開、これは徳野貞雄氏の言葉。日本の消費者は何でも食べる。世界の農産物貿易の1割を輸入し、食べずに捨てる。穀物自給率は年々低下し、平成15年で28%。これはアフリカの飢餓の国と同じ。輸入で食料が確保できると考えているおめでたい国民は、日本人だけ。


 消費者は「いつでもトマトを食べたい」といいながら「野菜に季節感がなくなった」という。「日本の米は世界で一番高い」と言いながら、農家の努力で米が安く、うまくなっても買わない。消費者は、わがままで、無知で、貪欲で、傲慢。飽食の限りを尽くす。そんないびつさを、我々は、どこまで自覚できているだろうか。


 我々消費者もまた、どこかで生産と結びついていなければならないとオイラは思う。生産が見えないから、消費者はわがままになる。古来より日本は自給的農業の国。農のかかえる問題を「わがこと」としてとらえること、ひいてはそれが日本人としてのアイデンティティの保持につながる。農業・農村が滅ぶことは、この国の旧来よりのシステム、美風が失われるということである。

 
 20世紀初頭、イギリスの植民地下、スワデーシーという運動があった。「国産品愛用」と訳される。イギリスの綿製品は使わない、ということである。ガンディーも糸車で糸を紡いでみせた。イギリス製シャツを焼いてみせた。安価なイギリス製品が、インド支配の装置として機能していることに気づいていたのだ。これは民族主義運動であった。


 消費者が、価格の安さだけで消費行動を決定するなら、グローバリゼーションを無批判に受け入れるだけの、根のない茫漠の民でしかない。農業は、日本人が日本人である、もっとも根幹の部分であるとオイラは思う。そういった意味でも、農業の価値を我々は再認識するべきだとオイラは思う。


農村の幸せ、都会の幸せ 家族・食・暮らし (生活人新書)

農村の幸せ、都会の幸せ 家族・食・暮らし (生活人新書)


《第2章の要約です》


■日本は世界で最もいびつな農産物輸入国家である。日本が世界の農産物貿易の1割を輸入している。そして食べずに捨てている。貿易で食料を確保できると思っているおめでたい民族は日本人だけだ。穀物自給率は年々低下し、平成15年で28%である。アフリカの飢餓の国と同じだ。


■現在の日本人の多くは、自分で食べ物を作ることができなくなった。「魚は骨があるから嫌」処理をしたものしか売れない。野菜は全部ヘタを切り落とす。ごぼうや里芋は、自分で皮をむくのも面倒くさいし、手が真っ黒になるのが嫌だといって、添加剤で漂白をしているものを買う。これはもう加工品。「化け物のような消費者」と言いたい。


■現代の消費者は「いつでもトマトを食べたい」といいながら「野菜に季節感がなくなった」という。化け物の証拠に、日本の消費者は何でも食う。妖怪飽食丸だ。日本以外の国では、たくさんの種類の食べ物は食べない。日本人は、豊かさを「食」に費やす。しかし和食ですら、外材食品に依存しているのが現状である。今や食のあり方は複雑怪奇で混乱している。


■日本の米は世界で一番高い。だが「ご飯」は、日本で一番安い食べ物である。お茶碗一杯が20円ほど。消費者は日本は世界一米が高いから安くしろというが、20円のものを10円にしたら米を食べるのか。


■米は日本の農業の主軸だから守っていかなければならないと言われているが、そもそも日本人は米を食べなくなった。昭和30年頃のひとりあたりの米の消費量は120キロ、現在では60キロを割っている。


■こうした変化の最大の理由は、家族構成が極小化したこと。昭和30年から平成17年まで、平均世帯家族数は4.99人から2.55人まで減少。家族が極小化すると、子どもが育てられない。年寄りの面倒も見られない。地域社会の安全も保てない。ひとり暮らしの人が、毎食米を炊くことは少ない。いくら農家が努力しても、消費者が米を多く食べるという保証は、まったくない。農の方に問題があるのではなく、消費者の方に問題があるのである。


■従来の農業指導者は、消費者をまったく無視してきた。昭和35年頃まで、日本には消費者がいなかった。農業人口は国民のほとんどが自分で作って食べていたからだ。農地開発や生産技術の開発の方に力を入れてきた。製造販売企業ならどこでもやるはずの、消費者の分類研究もやってこなかった。


■徳野氏が作った消費者の4類型は以下の通り。
 1 期待される消費者層     5.4% 農産物の価値が分る/金を支払う
 2 健康志向型消費者層    16.5% 農産物の価値がわからない/金を支払う
 3 分裂型消費者層      52.4% 農産物の価値が分る/金を支払わない
 4 どうしようもない消費者層 23.0% 農産物の価値が分らない/金を支払わない
 3と4で70%以上。これを1のサイドにどう持ってくるかが重要。で、新たに推進されているのが、グリーンツーリズム、都市農村交流、農業体験、スローフード、食育など。しかし、半接客業的なことも多く農業関係者にどこまでできるかは難しい部分も多い。