「創」2013年2月号/永六輔×矢崎泰久「ぢぢ放談」

創 (つくる) 2013年 02月号 [雑誌]

創 (つくる) 2013年 02月号 [雑誌]


 小沢昭一氏を悼むくだりで「ハーモニカブルース」の歌詞がすべて掲載されていた。ずっと聞いてなかった曲。ふいをつかれ、懐かしさで胸がしめつけられそうになる。あえて全文掲載した永六輔のセンスに拍手。


 そして気づいたのは、先日触れた「ぴよぴよ」と同じく、これも谷川俊太郎だったのだ。そう言えば、20数年前「いま生きているということ」という小室等の曲を、ある芝居の劇中歌に使ったことがあったが、あの歌詞も谷川俊太郎だったことを思い出した。詩人の言葉は、知らないうちにオイラの心の奥底に刻みつけられていたことを自覚した。


 対談のなか、矢崎泰久の「歌ができたいきさつ」を引用しておこう。


 『「話の特集」編集部に小沢さんが来て、その時いた谷川俊太郎さんにハーモニカの話をしていた。そしたら谷川さんが「その話は素晴らしいから、僕が詩に書いていいですか」とすぐにその場で書いた。しかもその場に山本直純さんもいて、小沢さんが詩を歌ったら、直純さのがその場で採譜してできた曲なんだ。あの歌は兵学校から帰ってきた小沢さんがハーモニカが欲しくて、探し回って持っていた金をはたいてハーモニカを買っちゃうという、すごい反戦歌だよね』


 歌詞中、何度も「ハーモニカが欲しかったんだよ」と繰り返す。これがきいている。この歌の主人公(小沢)は、一種の衝動的な「欲求」に突き動かされている。人には必ず「欲求」がある。国家や社会は、さまざまな衝動的欲求が無秩序に噴出することを、慣習や法律などを作り抑制している。お互いの欲求を完全に自由に行使することを認めると、利害が衝突し社会が混乱して、諍いや不公正の原因を作り出してしまうからだ。


 だが戦争は、戦争遂行を名目に、国民に多大な負担を強いる。この歌がすぐれた反戦歌になりえているのは、「ハーモニカが欲しかった」といった、ささやかで無害な欲求すら押さえこんでしまう国家の、暴力的性格を浮き彫りにしているからだとオイラは思う。だから「戦争は負けたんだ だけどハーモニカはふけるんだ」といった、牧歌的な何げないフレーズに、オイラは思わず心を動かされてしまうのだ。名曲です。


 「ハーモニカブルース」


  谷川俊太郎作詞/小沢昭一補作詞
  小沢昭一作曲/山本直純補作曲


 ハーモニカが欲しかったんだよ
 どうしてか どうしても
 欲しかったんだよ
 ハーモニカが欲しかったんだよ
 でもハーモニカなんて
 売ってなかったんだ
 戦争に負けたんだ
 かぼちゃばっかり
 喰ってたんだ


 ハーモニカが欲しかったんだよ
 どうしてか どうしても
 欲しかったんだ
 ハーモニカが欲しかったんだよ
 もう機関銃なんか
 欲しくなかったんだ
 戦争は負けたんだ
 誰も俺を待ってなかったんだ


 ハーモニカが欲しかったんだよ
 どうしてか どうしても
 欲しかったんだ
 ハーモニカが欲しかったんだよ
 金を300円もらって
 帰って来たんだ
 友達んちに泊まって
 そのうち100円盗まれたんだ


 ハーモニカが欲しかったんだよ
 どうしてか どうしても
 欲しかったんだ
 ハーモニカが欲しかったんだよ
 明治大学の廻りの道具屋を
 さがしたんだ
 明治はハーモニカバンドで
 有名だったんだ
 うまいところに目を付けたもんだ


 ハーモニカを見つけたんだよ
 すごいハーモニカを
 見つけたんだ
 ハーモニカを見つけたんだよ
 値段はピッタリ 200円
 200円 200円
 戦争は負けたんだ
 だけどハーモニカはふけるんだ


 (「丘を越えて」 ハーモニカ演奏)


 ハーモニカが欲しかったんだよ
 どうしてか どうしても
 欲しかったんだ
 ハーモニカが欲しかったんだよ
 何にもなかった あの年の夏


 


 そしてこれも。
 http://www7.ocn.ne.jp/~mitsue/ikiru.html