「男たちの旅路スペシャル・戦場は遥かになりて」



 このブログでずっとレビュウを続けてきた「男たちの旅路」の最終話。これまでのエピソードとは違い、単発の2時間のスペシャルとして、1982年2月13日に放映された。第一部が1976年、第2・3部が1977年、第4部が1979年なので、第4部から2年以上たっている。尾島信子(岸本加世子)は、鮫島壮十郎(柴俊夫)と結婚し妊娠、吉岡(鶴田浩二)も少々老いて見える。



 ストーリーはこんな具合だ。十数人のバットなどを持った暴漢が、夜中、警備員を襲撃するという事件が何度も起こる。吉岡(鶴田浩二)は、立ち向かわずに「逃げろ」と命令する。だが、雇い主や社の一部の幹部は「情けない」「身の安全を忘れて応戦することも必要だ」という。


 ある日、巡視中に暴漢の襲撃に出くわした吉岡は、一人で十数人の暴漢達をやっつけてしまう。それを見て、若い警備士(本間優二)は吉岡を非難する。「内心は得意でたまんないんでしょう。自分は逃げないでヒーローですか。あんた勇ましがり屋なんだよ」。そして、若い警備士は、ある夜暴漢に取り囲まれると、制止する尾島(清水健太郎)の制止を振り切り、立ち向かい応戦して、ついに殺されてしまう。



 DVDでは差し替えられているが、初放映時には、タイトルバックに「宇宙戦艦ヤマト」の場面が使われていたと言う。オープニングには、当時流行していた太平洋戦争を題材にした戦争映画のポスターがチラリ見える。作り手の言いたいことは明白だ。今(1980年代)、戦争を美化し、戦うことを称揚する空気がある。戦争の悲惨さや理不尽さを忘れ、「かっこいい」という風潮が広まっている。それでいいのか、そうした脚本家山田太一の危惧が、本作を作らせたのだ。


 吉岡は、彼の恋人の今井達子(真行寺君枝)とともに、若き警備士の遺骨を持って、彼の故郷の小笠原諸島の父島に行く。死んだ警備士の父親(ハナ肇)は「偶然にも」吉岡の親友だった。吉岡は父親に言う。このセリフが「戦場は遥かになりて」のテーマをもっとも表しているだろう。それはこんなセリフである。


吉岡 「若い者は、おとぎばなしを本気にします。国のために勇ましく戦って死ぬのも悪くないと思うでしょう。国のために死を決意する、国のために命を捨てる、本当にそうだったですか。一部の、思い上がった指導者のために、苦し紛れに考え出した、むちゃくちゃな攻撃方法のために、どれだけの若者が死んだか、日本人が死んでいったか、いや、殺されたといってもいい。本人はともかく、残された家族はいったいどうなるんですか。それが、それがあなたの言ってる、勇ましいことですか。勇気ということですか。私はそうは思わない。あんな思いは、二度と繰り返しちゃいかん。今、現在、戦争なんてもんは絶対やっちゃいかんと、大声で叫ぶのは、いや叫べるのは、現実に機関銃を撃って戦ってきた我々じゃないんですか。戦争を経験したものが年を取ってきて、その思い出を美しく語ろうとしている。そんなことでは、風向きが戦争に向き始めたとき、私たちは何の歯止めにもならない。現に、現に私は勇ましがっている。息子さんをあおって、そして死なせてしまった。どうか、許して下さい。こんな晩に、私はいったい何を喋っているんだ。自分を責めてるんです。ただ、それだけです」



 鶴田浩二扮する吉岡は、シリーズを通じて大きく変化した。第一作「非常階段」では彼はこう言った。「俺は若い奴が嫌いだ」「戦争中の若い奴はもっとギリギリに生きていた」「死ぬことにも、生きることにも、もっと真剣だった。」と。それがこの回では「(あの時は)一口に言えば子どもだった」である。戦争を美化し、悩んできたのは実は吉岡自身でもある。そのことを認め、吉岡は「大人になった」のである。こうした戦争に対する吉岡の変化を見るのは、感慨深いものがある。そしてこのセリフは、当時よりもさらに右傾化著しい「今」にも通じるセリフだと思う。


 ただ、同時に、このセリフからは、作り手の「甘さ」を感じる。吉岡には、若い警備士を死に至らしめた間接的な責任がある。死んだ警備士の父親を前にしてのこのセリフは、ほんらい贖罪のセリフとして語られるべきだと思う。だが、本作の山田太一は、そうはしない。ハナ肇扮する父親を、戦時中の若者を美化する「いさましがり屋」として描く。その結果、若い警備士の死は「父親の責任」ということになってしまった。吉岡の責任は薄められた。だから吉岡のセリフは、当事者のセリフではなく、傍観者の「説教」のように聞こえてしまう。


 だが、それでは若い警備士の死が浮かばれない。なので、作り手は、次のようなラストを用意した。


 達子は死んだ警備士の子を宿していた。父島に滞在中、急に腹が痛み始める。島には専門医はいない。ラストは自衛隊飛行艇を着陸させるため、島の漁師たちが明かりを灯し、進入路を確保する。無事飛行艇は着水し、彼女は東京の病院に搬送され、母子ともに命は取りとめた。



 30年以上前、初放映をオイラはリアルタイムで見た。飛行艇の着水という「男たちの旅路」らしからぬスペクタクルと、妊娠した真行寺君枝を助けるという、安易で俗情と結託したヒロイズムを着地点にしたラストは、当時でさえ「それはない」と思ったものだった。「戦争の真実を語らなければならない」「ヒロイズムは危険」と言いながら、ラストでドラマが拡散して、少々甘口のハッピーエンドになってしまい、リアルな硬派な内容に破綻が出たのは惜しい。「戦争をヒロイックに描いてはならない」という葛藤を、ドラマの軸として最後の最後まで押し通すべきではなかったかとオイラは思う。


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