「パリ20区、僕たちのクラス」


パリ20区、僕たちのクラス [DVD]

パリ20区、僕たちのクラス [DVD]


 (ラストに触れています)
 長らく観たかった作品。パリ20区の中学校を舞台に、フランス語教師フランソワとクラスの生徒24人との交流を、ドキュメンタリータッチで描く。第61回カンヌ国際映画祭パルムドール(グランプリ)受賞。監督ローラン・カンテ、原作フランソワ・ベゴドー「教室へ」。


 中学生たちは、演技経験のない素人。ほとんどが手持ちカメラでの撮影で、BGMもない。等身大の高校生が、とてもリアルに撮られていて、まるでドキュメンタリーと見まがうほど。演技経験のない素人の中学生を、7カ月かけたワークショップを経て、自然でリラックスしたふるまいのできる役者に育てあげた。本作はれっきとしたフィクションである。


 それでも、我々は、本作を通じて、パリの中学校の生々しい現実を知ることができる。パリの中学校は、日本と大きく違う。アフリカ系、アラブ系、中国系の生徒までいる、純粋のフランス人を探すのが難しいほどだ。移民には不寛容なフランスでさえ、パリは、これほどまで人種・民族が多様化しているということを、改めて実感させられる。


 制服もないし、席も自由。職員会に生徒代表が参加し、生徒の懲罰には、保護者の代表が加わる。授業で使う教材は教える教師が決める。世界には、いろいろな教育のスタイルがあり、それぞれに機能しているという当たり前の事実を、目の当たりにすることができる。


 クラス担任フランソワの授業は、生徒の意見を引き出しながら進める、アクティブなもの。生徒の内面に迫り、時に生徒と衝突したり、思わず教師の側が暴言を吐いてしまったりもする。オイラから見ると、教師としては不用意にすぎるようにも見えるが、常に本音で生徒に接しようとするフランソワに、かえって人間臭い部分を感じたことも確か。教師も人間である。生徒を思わず中傷してしまうことも、現実の教室ならもちろん起こりうる。


 スレイマンといアフリカ系の問題児がいる。勉強をまったくせず、クラスの輪を乱したりする。日本なら、やめさせるというほどのことではないと思うが、フランスの学校はなかなか厳しい。彼は懲罰委員会にかけられて退学させられる。懲罰委員会には、彼の母親がやってくる。彼の母親は、フランス語が話せない。彼は十分に弁明できないまま。言葉を喋れないことが、ハンディであることを、象徴的に表している苦い場面である。教室はパリの縮図に他ならない。


 ラスト、オイラがぐっときて、不覚にも涙が流れたのは、フランソワにずっと反抗してきた、勉強なんてほとんどしないと言った風情の女生徒が、プラトンの「国家」を読んだ感想を口にする場面である。彼女が話す「国家」の中のソクラテスの描写は、教師フランソワの姿と重なるようにオイラには思えた。反抗的な彼女もまた、最後は、教師やその背後にある教養の価値を認めたのだと受け取った。フランスでは、教室でも教養が生きている。古典を読めば、学問への道は開かれる。日本にはこうした古典はあるのだろうか。ちょっと思い浮かばない。そもそも不良も先生も、古典は読まない。


 上映時間は、2時間8分と少々長いが、リアルな教室の様子と役者の存在感に魅入られて、あっという間だった。教育関係者は見て損はないと思う。