百田尚樹「永遠の0」講談社文庫


永遠の0 (講談社文庫)

永遠の0 (講談社文庫)


 祝映画化。300万部のベストセラーだし、ネットで触れている人も多いのでサラリと。


 この作品ほど、あからさまに、若書きで、書割然としたベストセラーは珍しい。もし新人賞に応募した作品だったなら、選考途中ではねられてしまっていただろう。同じ作者の近作「海賊と呼ばれた男」の充実ぶりと比べると、かなりの落差があるように思える。


 あまりに陳腐で薄い現代パート、戦争体験者からの証言が「ウソをつかない」「喋っている内容に間違いがない」ことを前提に話が進んでいく展開の、引用然とした安直さなど、小説としての弱点があからさま。とくに、途中まで特攻に志願しなかった宮部が、最後でなぜ特攻に向かうのかは、意図的に不明瞭にしているのだと思うが、オイラの読解力では理解できなかった。


 おそらく、百田尚樹という人は、少なくともこの小説を書いた時点では、文学的な「表現」のデティールには、それほど興味がなかったのだろう。500ページ以上の大部を読ませる内容は盛り込まれているが、文学としてのクオリティやオリジナリティが気になる多くの読み手には違和感が残ると思う。