ソウォン/願い



 (ネタバレ炸裂です)
 これは劇場で観たかったなあ。BOSE氏の2014年映画ランキングベストワン。実話である。2008年に韓国で起きた幼女性暴行事件。事件によって傷つき、苦しみ、葛藤し、癒され、そして再び歩み始める家族の物語。いわゆる「癒し」の映画である。監督は「王の男」のイ・ジュンイク監督。父親に「シルミド」のソル・ギョング。母親役はオム・ジウォン。


 非常に衝撃的な内容を扱っているにもかかわらず、表面的には和やかで優しい映画にも見える。それは8歳の少女ソウォンを演じたイ・レの健気で素直なキャラクターの印象に依っているところも大きい。また、事件のショックで娘から拒絶された父親が、ソーセージCMのキャラクターの着ぐるみに入って、娘の心をほぐしていくというメインのコミカルなシークエンスは、誰もをホッとさせる場面だろう。


 同時に、この映画は影の部分もくっきりと描き出している。凶悪な幼女に対する性的暴行、容赦ないマスコミの取材攻勢、理不尽な裁判(なんと損害賠償請求は棄却される)等々。この映画を高く買うBOSE氏は言う。「韓国映画の容赦のなさは、強姦の結果、直腸と肛門切除でストーマを付けなくてはならなくなるということを描いたところに出ている。日本の映画では見たことも聞いたこともない。そこまで描くから、ソウォンや周りの人の心の動きに感情を揺さぶられるのだと思う」


 ラスト、女児は退院し、裁判が終わり、マスコミの取材攻勢も一段落し、被害者家族に日常が戻ってくる。居間のソファに寝転んで野球の中継を見ている父親。観客は映画の冒頭に同じ場面が繰り返されていることに気付く。父娘の話題は野球の勝敗の話である。表面的には事件の影はない。


 だが、その前の場面、カメラは「つらい目に遭った人が笑顔でいるのは、回りの人につらい思いをさせないため」と書かれたカードをチラリと映す。この映画の秀逸な点はここだ。あえて事件の前の日常のシーンを事件後のラストに繰り返すことで、当事者には「決して癒されえない部分」があるということを、さりげなく示す。もっとも大切なことを「描かないことで描く」という、アジア映画の良質な手法をここに見ることができる。


 安直なハッピーエンドで終わるのではなく、厳しい現実から目をそらさないリアリティが映画に深みを与えている。