ケビン・メア「決断できない日本」文春新書


決断できない日本 (文春新書)

決断できない日本 (文春新書)


 本書の帯を見ると「「沖縄はゆすりの名人」報道で更迭された国務省元日本部長爆弾告白」とある。外交官の世界についての知識はないので、国務省日本部長という役職が、日本にどのような影響を与える役職かはオイラには分からないが、作者のケビン・K・メア氏は、ジャパン・ハンドラーズ(アメリカ政財界の意向を受けて日本政府の方針に介入し、日本の政治家・財界人を動かすアメリカ人)であるとの指摘があることからも、米国の対日政策のキーパーソンであったことは間違いないだろう。


 本書の内容は、「ゆすりの名人」報道についての反論をはじめ、「トモダチ作戦の内幕」や、沖縄総領事時代の「沖縄「反基地」政治家との戦い」の詳細が綴られている。メア氏が有名になった「沖縄はごまかしとゆすりの名人」という報道について、彼は「嵌められた」と述べる。メア氏の反論には説得力があり、きちんと説明されているので、逆に報道した共同通信社の石山永一郎記者の言い分を聞きたいと思った。


 しかし、である。メア氏の言い分はよく分かる。自分の信念に基づき率直に自身の考えを吐露しているのもよくわかる。だが本書でのメア氏の言葉は、オイラには高圧的で脅迫的な言い回しのように思えてしまう。例をあげると、何回も使われる「〜しないと、こんなひどいことになる」という言い方である。たとえば、

 (湾岸危機に際し)私はさすがに「米軍は戦争の準備で忙しく、日本国内の政争に構っている時間的な余裕はない。国内の手続きばかりを優先する今のやり方だと、米軍もいつかは堪忍袋の緒を切らし、もう日本のお金はいらないと言い出すかも知れませんよ」と外務省の友人たちに警告したこともありました。(201ページ)


 もし知事が辺野古移転を受け入れなければ、結果として沖縄県民に大変残念な事になります。(185ページ)


 こうした言い回しは「日米関係を強化しないと、中国が沖縄を占領するぞ」という言説と共通する。アメリカ人は、こうした言い回しを日常的に使うのかも知れない。しかし、性急に相手の行動を促す言い方は、相手の判断と行動を尊重している感じが薄く、上から目線で「つべこべ言わずにやれ」と言っているように聞こえてしまう。「決断できない日本」という本書のタイトルが示しているように、メア氏には日本の政治家に対するいらだちがあるのだろうが、関係者の間でこういう言い回しがなされると、日米同盟は、対等な関係ではないようにオイラには思えるのである。


 元沖縄県知事である大田昌秀は「要請申し入れのために会った事があるが、いかにも“上から目線”の人物で、外交官というより軍部の文官。沖縄はアメリカ軍将兵の血で購われた土地だから何をしようと自分達の勝手と考えているアメリカ人の一人」と評したそうだ(出典)。オイラが本書を読んで連想したメア氏の姿は、かわぐちかいじの「沈黙の艦隊」に出てくる、日本を恫喝する、いささかステロタイプアメリカ高官の姿に重なるのである。