年金支給開始年齢の引き上げは、官僚の生活保障の強化になる−古賀茂明「闘論席」週刊エコノミスト2011年12月13日


エコノミスト 2011年 12/13号 [雑誌]

エコノミスト 2011年 12/13号 [雑誌]


 元経済産業省官僚で官僚制批判を続ける古賀茂明氏が、週刊エコノミスト2011年12月13日号の巻頭で、次のように述べている。

 年金支給開始年齢の68歳への引き上げ案。その検討は今年6月にまとまった社会保障と税の一体改革の政府与党案に盛り込まれていたが、国民には唐突に映った。厚生労働省は国民の反対の強さに驚き、慌ててこれを引っ込めてしまった。
 もともと年金財政の苦境を国民に訴えるダメモトのキャンペーンという色彩もあったが、官僚の方にも読み違いがあった。年金の危機的状況を訴えれば、引き上げがすぐにできなくても増税への理解が進むだろう、という程度の認識だったのではないか。ところが、「年金がもらえない期間、どうやって食いつなげはいいのか?」という切実な悲鳴は予想以上に強かった。
 なぜ、そうした民の痛みを理解できないのか?
 官僚たちは40年近く相場の3割前後の賃料で、次官になっても官舎に住むことができる。その分退職時の貯金は普通のサラリーマンに比べて数千万円多い。そのうえ数千万円の退職金もある。退職後すぐに年金収入がなくても何の問題もない。
 しかも、年金支給開始年齢の引き上げに合わせて自分たちだけは定年を延長すればよいと考えている。現に、65歳への年金支給開始年齢の引き上げに対応して、公務員だけは定年を65歳に延長すべしという人事院の提言が9月末、密かに政府・国会に提出済みだ。年金支給開始年齢が68歳に引き上げられたら、定年延長の意味は大きい。再雇用とは違い、給与は格段に高い水準が維持され、公務員宿舎に住む権利も継続する。つまり、年金支給開始年齢の引き上げは公務員にとってはむしろ生活保障の強化になるのだ。
 これでは、国民の不安、不満を理解できるはずはない。社会保障改革を官僚に任せておくと官僚の利益擁護ばかり優先される。国民の神経逆なでの事態が頻発し、改革は一向に進まないだろう。



 厚生労働省の素案は「65歳再雇用義務化」である。「再雇用」さえ「活力失われる」と企業は反発しているのに、人事院の提言はあくまで「定年延長」である。人事院は定年延長された国家公務員の給与は「60歳時点の30%減」としているようだが、民間の継続雇用制度を活用した人の年収は、正社員時代と比べて36.5%、他社に転職した人の年収は48.2%減少しているそうだ。


 国家公務員の厚遇はそのまま残される。こんなやり方を滑りこませようとするから官僚主導の社会保障改革は前に進まない。また国民は官僚のやり方にもっと関心をもつべきだろう。


65歳再雇用義務化 企業反発「活力失われる」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20111217-00000091-san-bus_all
国家公務員は定年65歳に引き上げ 「年収は現役の70%案」が進行中
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20111215-00000004-jct-soci