岸和田だんじり祭に行く



 9月14・15・16日の3日間、岸和田市でおこなわれた「だんじり祭り」に行く。このブログでも触れたいくつかの事柄が、一本の線につながった。キーワードは「母と洋裁」「カーネーション」「不良文化と祝祭」「商店街」「またあしたっ」。


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 ご存じの方には説明するまでもないだろうが、「カーネーション」は、2011年10月から2012年3月までNHKで放映された朝の連続ドラマ小説。モデルとなった小篠綾子は、岸和田で洋装店を経営し、自らも現役デザイナーとして活躍、また世界的なデザイナーとして知られるコシノ3姉妹(コシノヒロココシノジュンココシノミチコ)を育てたことでも有名。「働くことによって自己表現する」女性像を「ちゃんとした作り」で精緻に描き、粗製乱造される最近のテレビドラマとは明らかに一線を画す、朝ドラ史上傑出した出来となった。


 オイラはテレビを見ないので、放映時に視聴したことはなかったが、今年5月、東京在住のBOSE氏と、大阪の国立民族学博物館で特別展「今和次郎採集講義・・・・考現学の今」を見たときに、ミュージアムショップで小泉和子著「洋裁の時代」を購入したことがきっかけだった。「洋裁」に興味を持ったのは、今年80歳になった母が、洋裁を内職としてやっていたから。母は昭和7年生まれ。洋裁で生活を支えてきた母と、母の通ってきた時代を理解したい、そう思って本書を買ったのだった。


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 そうした経緯を知ったBOSE氏から「「カーネーション」を見ろ」と言われ、また「YOU TUBE」で町山智浩氏が「朝ドラ史上NO.1」と絶賛しているのを聞き、目利きの人たちに背中を押されるように、レンタルショップでDVDを早速借りて観た。ところが映画とは違い「長い」。15分×151(回)=約38時間もある。サボリながらも何とか最後まで観て内容を理解した。NHKの朝ドラらしからぬ非優等生ぶり、悪く言えば「仕事にかまけ男を囲った」女性の、足りないところも醜いところもきちんと描き、きちんとドラマとして成立して見せた作り手の「誠実さ」に感動させられた。


 「だんじり」についても書かねばなるまい。「だんじり祭」は岸和田を代表する有名な祭り。「カーネーション」でも、大正13年から平成22年まで、節目節目に登場した。だんじりと呼ばれる屋根のついた装飾を施した車を、100メートル近い綱で500人ほどで引っ張る。こうしただんじりが岸和田地区だけで22あり、9/15・16の両日、岸和田市中を一日中曳行される。とくにカーブを曲がるとき、スピードをあげて曲がるのを「やりまわし」と言い、ダイナミックな見せ場となる。タイミングが悪いとだんじりが民家に激突したり転倒したりすることもある。勇壮で男性的なその様子は、男勝りに生きてきた主人公糸子の生き方の象徴である。



 「カーネーション」の放送のせいもあり、町は例年以上の人出であふれていた。とくに駅前商店街と呼ばれるアーケード街は立錐の余地もないほどで、目の前をだんじりが疾走していくたびに、接触しないかひやひやした。9/15夕方に台風性のかなりはげしい降雨があり、アーケードの中にいたオイラは雨宿りする人などで埋め尽くされてしまい、動きがとれなくなり、ちょっとひやりとした。もし人が将棋倒しになれば大事故になるかもなどと、いらぬ想像をしてしまったのだ。


 「カーネーション」のモデルになった「コシノ洋裁」は、この商店街の中にあり、この日はシャッターがおりていたが、普段の日はギャラリーとして展示が見られるとのことであった。またコシノ洋裁とは別に、実際にドラマの中の洋裁店の名前をつけた「オハラ洋裁店」という場所もあり、ドラマで使用された洋服のレプリカなどが展示されていて、たくさんの来場者で賑わっていた。



 この駅前商店街をはじめ、古くからの商店街がいまだ機能していたのが印象的だった。オイラの住む徳島では、昔からの商店街の多くは、すでにシャッター街と化し、再生も絶望的。岸和田では、だんじりをひくためには数百人の参加者が必要だが、祭を通して古くからのコミュニティが維持されている様子が一見のオイラにも確認できた。なお岸和田の商店街の家々の多くは写真のように2階建てで、「カーネーション」でも描かれているように、家々の2階から通過するだんじりを見ることができる作りになっているのが興味深かった。



 さすがに祭り当日は、祭りに参加するために、多くの商店が休みにしていた。それでも旅行中多くの人たちから話しかけられ、多くの人たちから親切にされたのも下町ならでは。ふと先日読んだ「商店街はなぜ滅びるのか」(新雅史)という本を思い出した。この本によると、商店街は伝統的な存在ではなく、多くは二〇世紀になってから人為的に作られたものだと言う。「カーネーション」もまた、岸和田の商店街の、大正から現代までの盛衰を活写したドラマと言える。今も健在な岸和田の商店街を見ながら、そんなことを考えた。


商店街はなぜ滅びるのか 社会・政治・経済史から探る再生の道 (光文社新書)

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関連エントリ

■[映画]みんぱく映画会「記録映画 昭和の家事」
http://d.hatena.ne.jp/furuta01/20120603/1338907329
■[本/文学]小泉和子編著「洋裁の時代」OM出版/農文協
http://d.hatena.ne.jp/furuta01/20120607/1339111806
■[その他]いまだ見ぬ「カーネーション
http://d.hatena.ne.jp/furuta01/20120608/1339169258
■[その他]早速観た「カーネーション」第1週 あこがれ
http://d.hatena.ne.jp/furuta01/20120609/1339294663
■[その他]「カーネーション」と「今和次郎」展、「おじさん図鑑
http://d.hatena.ne.jp/furuta01/20120614/1339777997