第27回高知県高等学校演劇祭 その5


上演6 高知学芸高 田中教如作「楽しい歓迎会」


 昨年もそうだったのだが、高知学芸高の演技は「まっすぐに「演劇」に向かっている」点において、とても好感が持てる。「演劇に向かう」とは、相手を意識してセリフを言い、相手の言ったことに対して、ちゃんと気持ちが反応して次のセリフが発せられる、そんなセリフのラリーに対する集中力と持続力が役者から感じられるということだ。


 今年の上演作品「楽しい歓迎会」は、とある将棋部の、新入生歓迎の様子をコミカルに描いている。新入生歓迎と言っても、先輩ひとり、後輩ひとり。冒頭はたったひとりの先輩の独白シーン。机の上でのけぞってだるそうにしている異様な態勢からはじまる。幕開けからしてすでにユニークで、作り手の「面白がらせてやろう」という意思が感じられるユニークな幕開けだ。


 二人の役者は、テンションが高く、ノリがいい。とぼけた感じも面白い。セリフは初々しいが、相手のセリフを意識してセリフが出されているので、おおむねセリフがうまくかみ合っている。ただ、二人ともボケる側なので、もう少しツッコミを生かした感じで作ると、もっとかみ合った感じになるだろう。先輩が書いたという台本も、リズムやテンポがとてもよく、書き手がノッて書いているのがよくわかる。盤上の将棋のコマの戦いを、格闘風に擬人化してみせるという趣向も楽しいし、そしてなによりも、くだらない、意味のないことが延々と繰り広げられるのがいい。くだらない行為の連続の方が、演劇が立ち上がるにふさわしい場であることを、この創り手はよく分かっていると思う。


 入学したばかりなのに「わたし、明日転校するんです」と新入生が告白する終盤の展開は、あまりに馬鹿馬鹿しいので、ご都合主義だがオイラがことさら取り上げるべきことでもあるまい(見れば誰でも分かる)。確信犯的なヌケヌケとした展開のひとつと読めないこともない。


 新入生は、くだらない歓迎会に参加することで、部活動を味わい、充実感を得た。同時に先輩にとって、この歓迎会は何だったのだろうとオイラは勝手に考えた。おそらく、先輩は、後輩が来ることで初めて、先輩であることを味わうことができたのだ。かけがえのない時間になったのだ。そう考えるなら、むしろ、この将棋部には、他に部員はいない、たった一人の将棋部で(他の部員は妄想で)、現実は対戦相手にも事欠いていたとした方が、より切実だし、この歓迎会の時間に対する「愛おしさ」に磨きがかかるのではないか。「たったひとりの将棋部員」に「たった一日しか部活のできない新入部員」、ほんの少しの「部活らしい時間」が奇跡のようにたちあがる、そんな瞬間にしたら、もっと演劇的なんじゃないかと、オイラは勝手に妄想した。